【2ch名作SS】のび太「ドラえもんが消えて、もう10年か……」 (2)



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206: ◆9XBVsEfN6xFl 2014/08/11(月)20:21:19 ID:p47Ruh7JC

彼のことを思い出すと、閉ざされていた僕の口は開き、自然と言葉が出た。

「……ねえ、最近どう?仕事忙しい?」

「……うん。やっぱり忙しいわね」

「大変だね。でも、今日は休みとれたんだ」

「取れたって言うのかな……課長がね、言ったの。働くことも仕事なら、休むこともまた仕事だって。それでもなかなか休めなくていたら、この通り。無理やり連れてこられちゃった」

「ハハハ……」

……舞さん、やっぱ課長なんだ……全然見えない……

「ほんと、課長には感謝してるわ。いつも私をサポートしてくれるし、優しいし……」

そう話すしずかちゃんは、とても生き生きとしていた。
本当に、今の仕事が好きなのだろう。

そこで僕は、とても気になることを口にした。

「……出来杉は?」

「え?」

「出来杉は……一緒に仕事してるわ。彼ね、今度のプロジェクトのリーダーになったのよ。とても、張り切ってるわ」

「……そう、なんだ……」

……出来杉は、やっぱり凄かった。
二人が働くのは大手企業。
その、プロジェクトリーダーなんて、なかなかなれるものではない。
しかも、あの若さで……

出来杉は、僕なんかとは全然違う。

そのことが、酷く惨めに思えていた……

 

208: ◆9XBVsEfN6xFl 2014/08/11(月)20:36:09 ID:p47Ruh7JC

 

「――さて、そろそろ帰らなきゃ」

彼女は、その場を立ち上がる。そして、一度大きく体を伸ばした。

「え?もう帰るの?」

彼女は、困ったような笑みを浮かべる。

「……うん。仕事が残ってるの」

「今日くらいは、ゆっくりしたら?」

「そうなんだけどね……」

「ストレスだって、溜まってると思うよ?無理しなくても……」

「大丈夫よ、のび太さん。確かに、ちょっと疲れてはいるけど」

「だったら――」

「――でも、気分はいいの。とっても……」

そう話すと、彼女は遠くの海を眺めた。
まるで海風に全身で触れるように目を閉じる。

とても、穏やかな顔で……

その顔を見たら、それ以上のことを言えなくなってしまった。
だから僕も、同じように海を見た。
遠くに見える入道雲が、ふわふわと風になびかれ形を変える。

「――のび太さん、あの雲、笑ってるみたい……」

「え――?……あ、ホントだ……」

大きな白い雲は、僕らを見守るように、空から優しく微笑みかけていた。

 

211: ◆9XBVsEfN6xFl 2014/08/11(月)20:44:57 ID:p47Ruh7JC

 

それから、しずかちゃんと舞さんは帰っていった。

『感謝するよ、のび太。おかげで、しずかはリフレッシュ出来たみたいだ』

最後に、舞さんはそう言った。
でも、正直僕は何もしていない。話だって少ししか出来なかったし。
それで持ち直したのなら、それはきっと、しずかちゃん本人の力なんだと思う。

ちなみに、ジャイアンとスネ夫は、完全に酔いつぶれていた。
何でも、酒に酔わせて舞さんの連絡先を聞こうとしたらしいが、逆に潰されたとか。
確か、ジャイアンはかなり酒が強い。
それをも上回る酒豪とは……舞さん、恐るべし。

二人が酔いつぶれていたこともあり、その日僕らは帰らず、近くの民宿に一泊した。
その日の夜、二人は地獄を見ていたが。
酒は、ほどほどに。

 

215: ◆9XBVsEfN6xFl 2014/08/11(月)21:08:21 ID:p47Ruh7JC

 

民宿を出るころには、ジャイアン達もようやくなんとか回復していた。
少しまだフラフラしてるけど、夜よりは何倍もましのようだ。

しかしながら、人生とは難しいものだ。
地獄を見ていた二人を介抱したのが僕。
だが家に帰ってから、今度は僕に地獄が訪れていた。

「……あぅぅ……し、死ぬ……」

帰宅した僕は、なんとなく体の怠さを感じ、その日は早く寝た。
次の日が仕事でもあったし、体調管理に万全を期すことこそ、一人前の企業戦士だからだ。

……だが、翌朝、あまりの気怠さに目を冷まし、水銀の温度計を使用したところ、
なんと数値は39度オーバーを叩き出していた。

どうやら、相当疲れていたようだ。

仕方なく会社に連絡を入れ、その日は休むこととした。
本日の企業戦士は、しばしの休息となった。

――ピンポーン

寝ていた僕は、玄関から鳴り響くチャイムの音に目を覚ます。
時刻は夕方。
こんな時間に来るのは、大抵新聞の勧誘であることを、僕は知っている。

フラフラとしながら玄関に向かい、ガチャリとドアを開けた。

「――新聞ならいりませんよ」

「……新聞?なんのこと?」

「…………へ?」

目の前にいた人物は、キョトンとしていた。
まあいきなり新聞の勧誘と間違えられたわけだし、無理もないわけで……

――いやいや。そうじゃなくて、その前に……

「さ、咲子さん?なんでここに……」

僕の問いにニッコリと笑みを浮かべた咲子さんは、手に持っていた膨らんだスーパーのビニール袋見せる。
そして……

「――晩ごはん、作りに来たの。……おじゃま、してもいい?」

 

219: ◆9XBVsEfN6xFl 2014/08/11(月)21:29:14 ID:p47Ruh7JC

 

「――少し散らかってるけど、気にしないで」

「おかまいなく。……うわぁ。ここが男の人の部屋かぁ……」

「あ、あんまりじろじろみないで欲しいかも……」

「んん?じろじろ見られたくないものでもあるの?」

咲子さんは、意地悪な笑みを浮かべていた。僕はそれに失笑を返す。

来たことに驚いたが、さすがに追い返すのは可哀想と思い、彼女を部屋に招き入れた。
実のところ、女の人を家に入れるのは、彼女が初めてだ。
しずかちゃんも入れたことない。

少しだけ片付けをしたあと、僕は布団に戻る。
彼女はそんな僕の横にちょこんと座り、引き続き部屋の中をきょろきょろと見渡していた。

その目は、好奇心旺盛な子供のようだった。

「……よくここが分かったね」

「うん。上司に聞いたの」

「……教えてくれたんだ」

……上司よ。個人情報とはなんぞや。

「……じゃあさっそく、キッチン借りるね。のび太くんは寝てて」

「あ、うん……」

そう言うと、咲子さんは持ってきていた花柄の赤いエプロンを身に付けた。
そして、軽快なリズムで、包丁の音を響かせ始めた。

 

222: ◆9XBVsEfN6xFl 2014/08/11(月)21:39:32 ID:p47Ruh7JC

 

「……」

不思議な光景だった。
僕は、料理をする彼女の背中を眺めていた。

前までは、こうして見る女性の姿は、しずかちゃんしかいないと思っていた。
……でも、今僕の目の前にいるのは、彼女ではない。
それが何だかとても不思議なことで、咲子さんの後ろ姿を、ただぼーっと見ていた。

すると、急に咲子さんは後ろを振り返る。
そして、僕が見ているのに気付いた瞬間に視線を前に戻した。
それから、ちょくちょく後ろを振り返りはじめた。

「……?どうかした?」

すると、彼女は照れるように顔を背けながら、呟く。

「……そんなに見られたら、少しだけ、恥ずかしいかも……」

「あ――、ご、ごめん……!!」

慌てて布団を被ろうとした。でも――

「――あ、待って!」

「え?」

「……やっぱり、見てていいよ……」

「う、うん……」

……なんなの、いったい。

 

223: ◆9XBVsEfN6xFl 2014/08/11(月)21:51:47 ID:p47Ruh7JC

 

「――どう?おいしい?」

咲子さんは、作った料理を持つ僕に、キラキラした視線を送りながら聞いてきた。
彼女が作ったのは、野菜がたくさん入った雑炊。
美味しそうだ。確かに美味しそうだ。
だが……

「……いや、感想聞かれても、まだ食べてないから……」

「え?――あ、そうだったね。ごめん、つい……

「いいさ。今から食べるから。――いただきます……」

とりあえず、一口ぱくり。

「……」

「……」

(……あれ?)

ちょっと待ってほしい。
雑炊ってのは、確か出汁とか醤油とかが入って、懐かしい味のする日本食のはず……
だが目の前にあるモノは、なぜか洋風テイスト。
醤油も出汁も感じない、ネイティブな味が口に広がる。
初めて口にするような味だ。

だが一番不思議なのは、それだけ本家雑炊からかけ離れているはずなのに……

「……お、おいしい……」

「ほ、ほんと?」

「う、うん。とてもおいしいよ……」

なぜだか分からないけど……

「いっぱいあるからね。たくさん食べて、早く治さないと」

「う、うん……」

その味は、なぜだか食欲を刺激した。
そして僕は、気が付けば、3杯もおかわりをするのだった。

 

225: ◆9XBVsEfN6xFl 2014/08/11(月)22:03:49 ID:p47Ruh7JC

 

たらふく雑炊(?)を食べた後、咲子さんは洗い物をする。
それだけではなく、掃除、洗濯をして、仕事に来ていくスーツにアイロンまでかけてくれた。

まさに主婦。
今すぐにでもお嫁に行けるだろう。

「――今日はありがとう、咲子さん」

「ううん、いいの。私が好きでしてるだけだし」

「……え?」

「え?――あ!違う違う!今のはそういう意味じゃなくて!」

「ええっと……」

「――あ!違うんじゃなくて!好きなのは本当だけど!今のはそういう意味で言ったんじゃなくて――!!」

彼女は、顔を真っ赤にしながら、顔を隠すように必死に手を振っていた。
その姿は、なんだかとても愛らしく思えた。
自然と僕は、お腹を抱えて笑っていた。
笑う僕の姿を見た咲子さんは、顔を膨らませ顔を伏せてしまった。

――ふと、咲子さんはあるものに気付いた。

「……これって……アルバム?」

それは、僕の小・中学の時の、みんなで撮った写真達だった。

 

232: ◆9XBVsEfN6xFl 2014/08/11(月)22:45:12 ID:p47Ruh7JC

 

もしかして人増えた?
ちょっと緊張……

「……これ、見ていい?」

「……うん。いいよ」

僕がそう言うと、咲子さんはアルバムをめくり始めた。
彼女が見る傍らで、僕もアルバムを覗き込む。

写真の中の僕らは、あの頃のまま時間が止まっていた。
あの頃、彼が取り出す不思議な道具により彩られた、夢のような毎日……でも、彼の写真は1枚も残っていない。
不自然に抜き取られたアルバムのポケットが、ところどころ散見された。

その何もないポケットを見るたびに、思い知らされる気分になる。
彼が、僕の隣にいないことを……

「――これ……」

感傷に耽っていると、咲子さんが言葉を漏らした。
彼女の見つめる先には、小学生の時の写真が。
それは、みんなで白亜期に行き、キャンプをした時の写真だった。

その中で、僕はあの子の隣に立っていた。

「……これ、あの時の……」

「……うん。しずかちゃん……」

「……」

そのまま、彼女は口を閉ざした。

 

236: ◆9XBVsEfN6xFl 2014/08/11(月)22:53:12 ID:p47Ruh7JC

 

「……やっぱり、幼馴染み……なんだね……」

ようやく彼女が口にしたその言葉は、とても寂しそうだった。
そしてそのまま、彼女は続ける。

「……ずるいなぁ、源さん……」

「……ずるい?」

「私には、のび太くんとの記憶は、会社に入社した時からしかないんだよね。
――だけど源さんは、のび太くんとの思い出が、こんなにたくさん残ってる。
……やっぱり、羨ましいな……」

「……」

「私ね、最近考えてるんだ。私とのび太くんは同じ地元なのに、なんでもっと早く会えなかったんだろうって。
もっと早く会っていれば、こんなに悩むこと、なかったかもしれないのに……」

「……咲子さん……」

「……」

「……」

部屋の中は、静まり返った。
台所の水道から漏れる水滴の音が、やけに大きく聞こえていた。
ポタリ……ポタリ……と。

 

241: ◆9XBVsEfN6xFl 2014/08/11(月)23:05:10 ID:p47Ruh7JC

 

「――私、そろそろ帰るね」

いきなり、咲子さんは立ち上がり、荷物をまとめ始めた。

「え?あ、うん……」

「……じゃあね。あ、寝てなきゃダメだよ?」

そう言い残し、逃げるように玄関に向かう彼女。
でもここで、僕は彼女が荷物を忘れていることに気付いた。

「――あ、咲子さん!これ――!」

その荷物を手に持ち、前屈みに立ち上がり彼女の方に向かう。

――すると、急に目の前が真っ暗になった。
激しい目眩に苛まれ、目の前が歪む。

(やばっ……そういえば、まだ熱が……)

フラフラと彼女の方に近付いていった。

「え――?」

彼女が僕に気付き振り返ると同時に、僕の意識は、そのまま暗闇の中に沈み始める。
体の力は抜け、彼女に覆い被さるように倒れ込んだ。

「あ――」

彼女の口から漏れた声だけが耳に入る。

それから先は、覚えていない。
……ただ最後に、彼女の腕に包み込まれたような……そんな、気がした。

 

244: ◆9XBVsEfN6xFl 2014/08/11(月)23:20:14 ID:p47Ruh7JC

 

「……うぅ……うぅん……」

気が付いた時には、朝の光が窓から射し込まれていた。
どうやら、そのまま眠ってしまったようだ。
体は軽い。熱も下がったようだ。

「……うん?」

その時、僕はようやく気が付いた。僕の腹部に顔を埋め、座ったまま眠る彼女の姿に――

彼女の横には、水が張った洗面器があった。
そして僕ま枕の横には、少し濡れたタオルも落ちていた。

それが意味することは、つまり……

(一晩中、看病してくれてたのか……)

無意識に、彼女の頭を撫でていた。

――その時だった。

ピンポーン……

玄関から、チャイムが鳴り響く。
こんな時間に誰だろうか――。
そんなことを思いながら、彼女を起こさないように横にずらし、玄関に向かった。

「……どなたですか?」

玄関を開けた瞬間、僕は凍り付いた。

「……具合、どう?」

一瞬、目を疑った。でも、間違いない。

「――し、しずかちゃん!?」

 

249: ◆9XBVsEfN6xFl 2014/08/11(月)23:33:07 ID:p47Ruh7JC

 

「――ど、どうしてここに!?」

「……剛さんから、のび太さんが風邪引いたって聞いて。お見舞いに……」

「あ……ああ……そう、なんだ……」

(――これは……マズイ!!!)

寝起きでぼけっとしていた僕の脳は、即座に高速回転を始める。

僕の部屋には、咲子さんがいる。そして時刻は朝。
誰が見ても、導き出される答えは同じだろう。

――即ち、御宿泊……

(――ま、マズイぞおおおおおお!!!)

しずかちゃんが僕の部屋を訪ねたのは、今日が初めてだった。
だがしかし、なぜよりよって今日なのだろうか!

やましいことは何もない。
何もない――が!いったい誰が信じると言うのだろうか……

「……ねえのび太さん。本当に大丈夫?」

しずかちゃんは、心配そうに僕の顔を覗き込む。
おそらく、死にそうな顔をしているのだろう。

「え!?ああ、ああ!大丈夫大丈夫!すごく元気!」

ちょっと大げさに、ジェスチャーをしながら言ってみた。
するとしずかちゃんは、ホッと胸を撫で下ろす。

「良かったぁ……ねえ、上がってもいい?」

(な、なんですとおおおおお!!??)

僕は、更なる窮地に立たされた。

 

253: ◆9XBVsEfN6xFl 2014/08/11(月)23:45:02 ID:p47Ruh7JC

 

「……だめ?」

「ダメって言うか……その……そう!凄く散らかってるし!風邪で寝てて、全然片付けてないんだ!!」

とりあえず、防衛線を張ってみた。

「もう、のび太さん。片付けないと、治るものも治らないわよ?
のび太さんは寝てていいわよ。私が片付けます」

(逆効果だったあああああ!!!)

こう来るとは!凄まじくマズイ!
ここまで言われたら、断る方が不自然かもしれない!
しかし……だがしかし!家に入れれるはずもない!

どうする……どうする……!!??

「――のび太くん、起きてたの?」

「な゛っ―――!!??」

突然、後ろから咲子さんの声が聞こえた。
さらにあろうことか、玄関へと近付いてくる。

そして……

「あれ?誰か来てた……の……」

「……え?……あなたは……あの時の……」

……ついに……ご対面、しちゃいました……。

そしてその場で、僕達はもれなくフリーズする。

その時、僕の脳裏には、なぜか走馬灯が流れていた……

 

268: ◆9XBVsEfN6xFl 2014/08/12(火)05:13:45 ID:8noyZ5OrM

 

「……のび太さん?」

「は、はひっ――!」

「これ……どういうこと?」

しずかちゃんから放たれる圧倒的なオーラが、僕の心を叩き潰しにかかる。
これまで、聞いたことがないくらいに怖い声。

凄まじく――どころではない。
超ド級に怒ってるのが分かる。

……が、今の僕には、この状況を的確に説明できるような余裕などあるはずもなく……

「い、いや……これはというと……」

「ちゃんと説明、してくれるかしら?」

「ええと……その……」

……結果、しどろもどろとなり、余計に誤解を招いてしまったようだ。

そんな中、突然咲子さんが切り出した。

「――私は、風邪で倒れていたのび太くんを、看病していただけです」

「……え?」

「……へ?」

ポカーンとする僕達を他所に、咲子さんは続けた。

「ですから、私がここにいたのは、寝込んでいたのび太くんを看病していただけなんです。やましいことは、一切ありません」

「……」

……なんとまあ、意外なことに、咲子さんが助け船を出してくれた。

 

272: ◆9XBVsEfN6xFl 2014/08/12(火)07:27:33 ID:8noyZ5OrM

 

「……のび太さん?それ、ホントなの?」

「う、うん……実は――」

「――ホントです。嘘なんか言ってません」

あくまでも、咲子さんは毅然とした口調を続ける。
だが、しずかちゃんは、ここで顔をムッとさせた。

「……悪いけど、私は、のび太さんに聞いてるの」

「のび太くんに聞いても一緒ですよ。だってそうなんだし」

「……」

少しずつ、険悪な雰囲気が辺りを包み始めた。二人とも、凄く怖い。

「そもそも、私がここにいて、何がいけないんですか?」

「な、何がって……」

「あなたは、のび太くんの彼女でもないはずです。そんなあなたが、文句を言う資格なんてありません」

「ちょ、ちょっと咲子さん……!」

「――で、でも!私はのび太さんの幼馴染みで……!!」

「それがなんですか!?」

「――!」

「そんなの、ただの幼馴染みじゃないですか!」

「……あ、あなただって!ただの同僚じゃない!」

「……私は……私は、のび太くんが好きです!告白もしました!」

「え――!?」

「好きな人と一緒にいて――何が悪いんですか!?」

「……!」

「……」

「……」

……これ、どうすりゃいいの……

 

277: ◆9XBVsEfN6xFl 2014/08/12(火)08:50:48 ID:8noyZ5OrM

 

「……」

「……」

さっきの言い合いから一転、双方にらみ合いの膠着状態が続く。
2つの視線はぶつかり合い、火花を散らすかの如、たただ相手を威嚇し続けていた………!!

(……って、他人事みたいに言ってる場合じゃないよな)

「……し、しずかちゃん?」

「………!!」

「あっ!しずかちゃん!」

僕が一声かけた瞬間、彼女は走って帰って行った。
この場合、どうすれば良かったんだろう――
自分の行動の選択肢すら思い浮かばなかった僕は、その場で立ち尽くす他なかった。

「……ごめん」

ふと、後ろからか細い咲子さんの声が聞こえた。
見れば彼女は目を伏せ、今にも泣き出しそうな顔をしていた。

……これも、僕のせいなのかもしれない。
彼女に、非があるわけがない。
彼女はただ、僕の身を案じていただけなんだ。

「……会社、行こうか」

「え?」

「遅刻しちゃうよ?」

「のび太くん……」

……だから僕は、今自分に出来る精一杯の笑顔を彼女に見せた。

それから、僕らは仕事に行った。

ドラえもん、僕は、これからどうすればいいんだろう……
君がいれば、何か不思議な道具で何とかしてくれるんだけどね……

――ふと、そんなことを考えた。
でも、彼はいない。いないんだ。
だからこれは、僕が何とかしなきゃいけないんだ。

そうだよね?ドラえもん……

 

283: 名無しさん@おーぷん 2014/08/12(火)10:46:40 ID:MxctosRux

 

追いついた

のびた頑張れ

 

286: ◆9XBVsEfN6xFl 2014/08/12(火)11:40:50 ID:HP3JlSZpP

 

それから、季節は流れていった。
気が付けば、あれだけ猛威を振るっていた夏は終わりを迎え、秋が訪れた。
食欲の秋。芸術の秋。僕の場合、昼寝の秋。

会社では、夏の終盤にかけて怒涛の激務ラッシュが押し寄せ、目の回るような忙しさとなった。
おかげでジャイアンとスネ夫に連絡もろくに取れないし、それどころかおちおち昼寝も出来なかった。

……しずかちゃんとは、あれっきりだった。
何度か電話をしてみたが、いつもコール音だけが僕を待っていた。
たぶん、嫌われてしまったのかもしれない。それも無理もない話だと思うが。

あの一件は、ジャイアンに相談してみたりもした。
ジャイアンからは怒られたが、それでも、僕に悪気がなかったことは分かってくれていた。
『一度謝り入れとけよ―――』
そう言われたが、電話にも出ない状態だと、いきなり家に行くのもマズイだろうから、結局謝ることは出来ていなかった。

今頃しずかちゃんは、何をしてるのだろうか……
出木杉と、仲良くしてるのだろうか……
不安に感じる夜が多くなった。

――そんな僕の支えは、ドラえもんからの手紙だった。

 

287: ◆9XBVsEfN6xFl 2014/08/12(火)11:59:33 ID:HP3JlSZpP

 

ドラえもんの手紙は、それからも定期的に届いていた。
相変わらず真新しい手紙が家に届いて来る。
夜中届いたり、家に帰ると届いてたり。
届く時間はまちまちだった。
そして不思議なことに、誰もドラえもんの姿を見ていないようだ。
あれだけ目立つ青いタヌ……もとい、青いロボットなら、誰かが見ててもいいと思うんだが……
いい加減出てきてもいい頃だと思うが、このまま手紙をくれるなら、いつかは会えるかもしれないと思っている。
こうして手紙が届くと言うことは、彼はどこかにいるということ。
焦ることはないだろう。

――そう言えば、あれから、少しだけ変わったことがある。

 

293: ◆9XBVsEfN6xFl 2014/08/12(火)14:11:48 ID:HP3JlSZpP

 

「――のび太くん!お待たせ!」

「ああ、咲子さん……」

咲子さんは笑顔で駆け寄って来る。とてもおめかししてる。
今日は、彼女と食事に行くことになっていた。

変わったことというのが、僕と咲子さんが出かける回数が増えたことだ。
仕事帰りにご飯を食べたり、休みの日に買い物に行ったり……

ちなみに、あの日の答えはまだ出せていない。
でも、咲子さんは一度も催促をしてこない。ただ、僕を待っている。

僕は、そんな彼女に甘えているのかもしれない。
頭ではそんなことはダメだというのは分かっている。
早く決めないといけないってのは分かってる。

……だけど……

「――のび太くん?のび太くん?」

「……え?」

「はぁ……またボーっとしてたのね……」

「ええと……えへへへ……」

「笑って誤魔化さない!……まったくもう……」

口では怒っていても、咲子さんはどこか楽しそうだ。

――今の関係が続けばいい

僕は、そんなことを考えている。とても卑怯な考えだろうな。
……最低だな、僕は……

 

294: ◆9XBVsEfN6xFl 2014/08/12(火)14:26:34 ID:HP3JlSZpP

 

その日の商店街は、人の波がうねっていた。
いつもよりも人が多い。

こうして見れば、もう大多数の人が秋物の服に衣替えしていた。
確か、地方の山では天然スキー場もオープンしている。

これからどんどんと冬に変わっていくのだろう。

季節は巡る。ぐるぐると。
ダラダラ昼寝してても、目まぐるしく忙しい毎日でも、時だけは一刻一刻と移り行くのだろう。
そう考えたら、少しだけ、時間というモノもどこか神秘的に思えてくる。

「ずいぶん人が多いね」

「うん、そうだね」

「これだけ多いと、迷子になるかも」

「へ~……咲子さんでも迷子になる時があるんだね」

「私じゃなくて、のび太くんが」

「ぼ、僕が?」

「だってのび太くん、けっこうドジだからね」

「ひ、酷いよ~」

「ハハハ!ごめんごめん!」

彼女は笑いながら、くるくると僕の前で回る。
天真爛漫で、笑顔が絶えない彼女。
少しだけ寒がりな彼女は、マフラーを首に巻く。彼女が動けば、赤いマフラーが風に流れていた。

本当に、彼女は可愛いと思う。本当に……

 

295: ◆9XBVsEfN6xFl 2014/08/12(火)14:37:50 ID:HP3JlSZpP

 

「あ、ちょっとこの店入っていい?」

「ここは……?」

街の片隅にある、アンティークな小物屋。
中には色々なものがあった。

人形、絵画、置物……こういうものに、興味があるのだろうか……

「すぐ戻るからね。ちょっと店の前で待ってて!」

「うん。行っておいでよ」

「うん!」

そして、彼女は小走りで駆けて行った。
そして、小さなベルの音を響かせ、店に入る。

彼女がいなくなった後、僕は目の前を通る人たちを眺めていた。
こうして見える人たちには、それぞれにそれぞれの人生がある。
喜びがある。悲しみがある。悩みがある。

今、僕がこうして考えていることも、もしかしたら誰かが同じように考えているのかもしれない。
何が言いたいかというと……まあ、特に意味もない。
ただ、それだけ多くの人が、色々な形の道を歩いているということだ。
そしてそれは、それぞれが自ら選んで来たものであるということだ。

……僕もそろそろ、自分の足で歩くべきだろうな。
いつまでも立ち止まることなく、一歩を踏み出すべきなんだろうな。

流れる人たちの群小を見つめて、そう思った。

 

298: ◆9XBVsEfN6xFl 2014/08/12(火)14:46:53 ID:HP3JlSZpP

 

――その時、気が付いた。
流れる人の中に、とても見慣れた二人組がいたことを……

(あれは……!!)

目を大きく見開く。人の波の中に紛れた彼と彼女。
僕には気付いていないようだ。
そして、僕の前を通る時、波が一瞬途切れる。

―――二人は、腕を組んでいた。
その二人の表情は、とても幸せそうに笑っていた………

「―――しず―――」

――声が、出なかった。体が、心が、声を出すことを拒絶した。
そして二人は、再び人の波の中に消えていった。

時間にして、ほんのわずかな時間。
ほんのわずかな時間、彼と彼女は僕に見せつけるようにその姿を見せた。

……これが、僕の行動の結果なのだろうか……
思わず、天を仰いだ。

「……ドラえもん、ごめん……」

そしてなぜか僕は、彼に謝る。

秋風が、体を通り抜ける。
その風は、とても冷たかった。

 

300: ◆tRZ1JSBHm. 2014/08/12(火)14:49:04 ID:OWgDqacda

 

波乱の予感

 

 

332: ◆9XBVsEfN6xFl 2014/08/12(火)15:18:36 ID:HP3JlSZpP

 

「――お待たせのび太くん!」

「ああ……うん……」

「……ん?……んん??」

笑顔で店を出て来た彼女だったが、僕の顔を見た瞬間、僕の顔を下から覗き込み始めた。

「………」

「……な、なに?」

「……のび太くん……何かあった?」

「え――!?な、なんで!?」

「だって、のび太くん、落ち込んでる顔してるし」

「そ、そんなことないけど……」

「ふ~ん……」

咲子さんは、どこか腑に落ちない表情を浮かべる。
もしかして、僕って顔にすぐ出るんだろうか……

「……まあいいや。ねえ、行こ!」

「え?あ、ちょっと――」

彼女は急に僕の手を掴み、商店街を走り始めた。
たくさんの人の中を抜けていく。

商店街の中で、走っているのは僕達だけだった。
すれ違う人は僕らに視線を送る。

それすらも掻い潜るように、僕らは走った。

僕らが走る方向は、あの二人が消えていった方向とは逆の方向……
腕を引っ張られながら、一度だけ、後ろを振り返る。

――当然だが、二人の姿は、どこにもなかった。

 

336: ◆9XBVsEfN6xFl 2014/08/12(火)15:33:28 ID:HP3JlSZpP

 

しばらく走った後、僕らは高台の、見晴らしのいい公園に辿り着いた。

「はあ……はあ……つ、疲れたね……」

「はあ……はあ……さ、咲子さんが……走るからだよ……」

二人揃って、肩で息をする。
辺りは少し肌寒くなっていた。

それでも、体は熱を帯びる。
彼女の額にも、ほんのりと汗が滲んでいた。

「……あ~、空気が気持ちいい……!!」

一足先に呼吸を整えた彼女は、空に向かって大きく体を伸ばす。
続いて、僕もようやく息を整えた。
そして二人並んで、公園から見える景色を見下ろした。

「……きれいだね……」

「……うん。きれいだ……」

時刻は昼と夜が交差する時間。
空を見れば、東の空は藍色に、西の空は茜色に染まっていた。
そして二つの空の真ん中は、優柔不断な様子で、藍と茜が入り混じる。

星の光はまだ目立たない。
それでも、空の片隅では、既に星々が煌めき始めていた。

街並みを見てみれば、ポツリ、ポツリと、徐々に明かりが灯りはじめていた。
遠くに見えるローカル線では、光の列車が線路を走る。
街中では車のライトが列を作り、それぞれの帰るべきところへ向けて、光の筋を残していく。

……とても、幻想的な光景だった。

僕らはしばらく、その情景に目を奪われていた。
そして言葉すらも奪われ、街が夜に染まる様子を、ただ眺めていた。

 

338: ◆9XBVsEfN6xFl 2014/08/12(火)15:46:55 ID:HP3JlSZpP

 

「――あ、そうだ!」

突然、咲子さんは声を出し、ごそごそとバッグをあさり始める。
どうしたのかと見守る僕の目の前に、バッグから小さな小袋を取り出した。

「えっと……これは?」

「いいから!開けてみて?」

「……うん」

彼女に促されるまま中を開けてみる。
その中には、小さな犬の置物があった。青い、ネクタイを付けた犬だった。

「これは?」

「フフフ……私のは、これ」

そう言って彼女が見せてきたのは、同じく犬の置物。
こちらは赤い可愛いリボンが付いていた。

「それが、のび太くん。これが、私」

「ああ、そういうこと……」

「そうそう。――ねえ、取り替えっこしよ?」

「え?」

「いいからいいから!はい、私の」

「う、うん……」

「じゃあ、今度はのび太くんのをくれないかな?」

「うん。……はい」

「うん!ありがとう!」

そして僕らは、犬の置物を交換し合った。

 

339: ◆9XBVsEfN6xFl 2014/08/12(火)16:00:31 ID:HP3JlSZpP

 

「ええと……どうして取り替えたの?」

「……だって、こうすれば、いつもお互いを応援出来るでしょ?」

「応援?」

「そうそう。例えばのび太くんが落ち込んで家に帰ると、その置物が励ますの。頑張れー、頑張れーって。
逆に私が落ち込んでいるときは、のび太くんの置物が私を励ましてくれるの。
のび太くんはどうかは分からないけど、私はそれだけで元気になれるよ。いつも、のび太くんが見守ってくれてるって思えるし。
――だから、のび太くんも辛いときは思い出して欲しいな。いつも私が、応援してるってことを……」

「―――」

……その言葉は、彼の手紙と重なった。

―――僕はいつでも、キミを応援してるよ―――

そう思った瞬間、僕の目からは涙が溢れ出してきた。

「……ひぐ……ひぐ……」

「え――ッ!?ど、どうしたののび太くん!?」

彼女は慌てて、僕の体に触れる。
それでも僕の目からは、止めどなく涙が溢れ出ていた。
苦しいとき、辛いとき、僕はいつも彼の手紙の言葉を思い出していた。
そして目の前の彼女は、今まさに、彼と同じ言葉を口にした。

それが本当に嬉しくて、暖かくて……心の奥からつま先まで、優しく包まれるような……そんな感覚だった。

「……」

彼女はただ、僕が泣き止むのを待っていた。
僕はひとしきり泣いた後、ようやく落ち着きを取り戻した。

「……ご、ごめん……ありがとう……」

「う、うん……」

彼女は、未だ混乱していたようだ。

彼女が、とても愛おしく思えた。
大切にしたいと思った。そして僕の口は、自然と動いていた。

「ねえ……咲子さん……」

「え?どうしたの?」

「――僕と、付き合ってほしい……」

 

348: ◆9XBVsEfN6xFl 2014/08/12(火)17:07:14 ID:HP3JlSZpP

 

「――おい、野比」

「……え?あ、はい」

会社で、突然上司に呼び止められた。
何だろうかと思っていたら、上司はとある人物を指さす。

「……あいつ、どうしたんだ?」

「あいつって……」

上司の指の先にいた人物は……

「……咲子、さん?」

「そうそう。見ろあの様子を――」

……確かに、彼女の様子は誰が見ても異常事態だった。
ソファーに座りぼんやりとしながらも、頬は常に緩んでいる。
熱でもあるのかと思うくらい顔は桃色に染まっていた。

さらに一番奇妙なのは、突然真顔になったと思ったら、すぐにとろけるように顔が緩む。

(ちょっと咲子さん……)

いくらなんでも、緩み過ぎでは……

――と、その時。

「……なあ野比。ここだけの話だが……」

「は、はい……」

「……幸せに、してやれよ……」

「―――ッ!?」

「ハハハ……!!部下のことなど、お見通しだよ!!ハハハ……!!」

そのまま上司は、笑いながら去って行った。
何だかんだで部下のこと、見てるんだな……

――誰かに漏らさないことを、切に願う。

 

351: ◆9XBVsEfN6xFl 2014/08/12(火)17:29:13 ID:HP3JlSZpP

 

「――咲子さん?咲子さん?」

「……ふえ?――え!?え!?な、何ッ!?」

「いや……そんなに驚かなくても……」

「ご、ごめん!!――じゃなくて!!ごめんなさい!!」

「なんでわざわざ敬語に……」

「あ!う、うん……なんか、緊張しちゃって……」

仕事帰りにご飯を食べながら、そんな会話をしていた。
付き合い始めて1週間。
なんか、前より会話が出来ていない……というより、なぜか咲子さんが毎回毎回一緒にいると極度の緊張状態に陥ってしまっている。

こんな彼女を見るのは、初めてだった。

「咲子さん、どうしたの?今までと大して変わらないでしょ?一緒にご飯食べてるだけだし……」

「だって……何だか凄く恥ずかしいし……それに、同じじゃないよ。だって私達……つ……つつ、つ……つ、付き合って…るん、だし……」

彼女の顔は茹でタコのように真っ赤に染まる。
……あ、頭から湯気が出てる。

「……重症だね」

「……うん。もしかして……今の私、嫌?」

「そんなことないよ。ほら、ご飯食べよ」

「う、うん……!!」

彼女は、すっかり変わった。
前まではどんどん僕を引っ張る感じだったが、今では凄まじく恥ずかしがり屋に……
トラン〇フォーマーもビックリなくらいの、メタモルフォーゼかもしれない。

 

382: ◆9XBVsEfN6xFl 2014/08/12(火)19:30:35 ID:HP3JlSZpP

 

「ふぅ~……」

部屋に帰った後、一度大きく息を吐いた。

「まさか……こんなに変わるなんてなぁ……」

帰りに、咲子さんの手を握ってみた。
その瞬間、彼女は顔から火が出る勢いで真っ赤にさせ、下を向いたまま動かなくなってしまった。
……それでも、繋いだ手は決して離すことはなかった。

だから僕は、彼女を守りたいって思う。
こんな僕でも、彼女は幸せと言ってくれた。それが、とても嬉しかった。

ただ……

――カラン

「………」

郵便受けから音が鳴り響く。
それはつまり、手紙が届いたということ。

このところ、手紙の頻度が少なくなった気がする。
定期的ではあるが、次の手紙までが間隔が空くようになった。

その理由については分からない。
とりあえず、僕は郵便受けの便箋を手に取り、中の手紙を取り出した。

 

386: ◆9XBVsEfN6xFl 2014/08/12(火)19:44:02 ID:HP3JlSZpP

 

―――――――――――――――――――――――――――

のび太くんへ

今キミは、心の中に、色んな想いがあるんだと思う。
どれが本物で、どれが偽物なのか。
キミは、それに悩んでいるんだと思う。

でものび太くん。人の気持ちは、いつも一つとは限らないんだよ。
その一つ一つが、きっとキミの本当の気持ちなんだと思う。
でも、それを全て出してしまうことは、難しいことなんだ。

人は、いつかは岐路に立つんだよ。
そこでどこに向かうのかは、その人にしか分からない。
キミもきっと、それで迷うことがあると思う。

そんな時は、キミの歩いてきた道を、一度振り返ってごらん。

そうすれば、きっと何かが見えるはずだよ。

――――――――――――――――――――――――

(自分の道を、振り返る――か……)

これまでの僕は、どんな道を歩いてきたのだろう。
小学生の時に彼が来て、夢のような毎日を過ごして、突然いなくなって、悲しみに打ちひしがれて……

自分の道を思い出した僕の脳裏には、彼の姿がいつもあった。

(……まるで、親離れ出来ない子供だな……)

そんな自分が何だかおかしく思えた。
今でも、無意識に彼の助けを望んでいるのかもしれない。
そんな、気がした……

 

388: ◆9XBVsEfN6xFl 2014/08/12(火)19:59:17 ID:HP3JlSZpP

 

眠るために瞳を閉じる。
薄暗い室内の枕元には、咲子さんのくれた置物があった。
それを見ると、ふと笑みがこぼれた。

「……おやすみ」

ここにはいない彼女に向けて、そう呟いた。

――ピンポーン

突然、部屋の呼び鈴がなった。
時刻は夜遅い。
いつもなら手紙かと思うが、手紙ならさっき来たばかりだ。
だとするなら、いったい……

「………」

少し、体が震える。
この世ならざるモノを信じるような歳ではない。
それでも、怖いものは怖い。

この恐怖から解放されるには、それが何なのか、確かめる必要があった。

おそるおそる、玄関に近付く。手にはハエ叩き。
こんなものが武器になるとは思えないが、何か持っていないと不安だった。

そして、玄関を開けた―――

「――って、ええええ!?」

そこにいた人物の姿に、思わず声を上げてしまった。

「……こんな時間に、ごめんなさい……」

「し、しずかちゃん!?」

 

393: ◆9XBVsEfN6xFl 2014/08/12(火)20:17:56 ID:HP3JlSZpP

 

「ど、どうしてここに!?」

(あれ?デジャヴ?)

何だか前にも似たようなことが……

「……この前の、お礼を言いに来たの……」

「………へ?」

「ありがとう、のび太さん。私、嬉しかった。あなたが来てくれて……」

この前?この前とはいったい……
僕がどこに来たって?

言葉の真意は分からないが、しずかちゃんは目に涙を浮かべていた。

「私、とっても不安だったの。たった一人取り残されて、どうすればいいか分からなくて……」

「は、はあ……」

「でも、あなたが来てくれた。あれだけ酷いことをした私を、大切だって言ってくれた。……それが、本当に嬉しかったの……」

いやいやいや、本当になんのことでございましょうか。

「……まあ、のび太さんが持って来た缶詰は食べられなかったし、雪山にコートで来るのもどうかと思ったけど……それでも、私はあなたのおかげで助かったの……」

(缶詰?雪山?コート?――――――――あ)

それらの単語を集計した後、僕は思い出した。

「――でも、どうして私が遭難したって分かったの?」

(……それ、子供の僕ぅううううううううう!!!!)

 

394: ◆9XBVsEfN6xFl 2014/08/12(火)20:18:18 ID:HP3JlSZpP

 

思い出した!!
そう言えば子供の時、しずかちゃんが雪山で遭難して助けに行ったんだっけ!!
まさか、それがこの前!?
で、でも、まだ秋じゃないか!?
確かに秋でも既に積もってる山はあるけど……もしかして、あれって秋だったの!?

「……あなたが私に言ってくれたこと、本当に嬉しかったなぁ……。やっぱり、私、自分に嘘は付きたくない」

「え?え??」

「――私、あなたが好きよ、のび太さん」

(え、えええええええええええ!!??)

子供の僕!!いったい何言ったの!!??何事態をややこしくしてんの!!??

「話は、それだけ。――私、帰るわね。お休み、のび太さん」

「あ、あ!ちょっと……!」

しずかちゃんは、帰って行った。立ち去る彼女の背中を、僕は呆然と眺めていた。

……こうして、小学生の僕と未来から来た彼の手により、事態はより一層面倒なことになった。なっちゃった。

どうすりゃいいのおおおお……!!

 

399: ◆9XBVsEfN6xFl 2014/08/12(火)20:42:44 ID:HP3JlSZpP

 

「――つまり、子どもの時ののび太のせいで、色んな誤解が生まれてしまった、と……」

「うん……そうなんだ……」

ジャイアンのオフィスで、僕は彼にありのままの出来事を告げた。
ジャイアンは腕を組みながら、それを聞く。

「それにしても、のび太に彼女が出来てたなんて知らなかったぜ……そっちの方が驚きだ」

「秘密にするつもりじゃなかったんだけど……言ってなくてごめん……」

「いやいいんだよ。むしろ、祝福したいくらいだ。……それにしても、しずかちゃんの方だな……」

「うん……」

「……やっぱ、ありのまま言うしかないだろ。助けに来たのは、子供の時の自分ですって」

「そうだよね……それしかないよね……」

「そうだ。それしかない。じゃないと、このままじゃみんなが不幸になるぞ?」

「うん……そうだね。ありがと、ジャイアン」

「いいってことよ。また、いつでも相談に来いよ」

ジャイアンに見送られながら、僕は会社を後にする。
確かに、正直に言わなきゃいけない。
でも、とても言い辛いのは事実………

(でも、しょうがないよね……)

重い足を引きずるようにしながら、僕は道を歩き出した。

 

406: ◆9XBVsEfN6xFl 2014/08/12(火)21:06:20 ID:HP3JlSZpP

 

「………」

重々しい空気を肌で感じながら、僕はその建物の前に立った。
そこは、しずかちゃんの会社。あと、ついでに出木杉の会社。
電話したが繋がらず、こういうことは早い方がいいというジャイアンの助言を元に、僕は単身彼女の仕事場を訪れた。
しかしながら、こういう私的な用件のために職場を訪れるのは気が引くなぁ。
だが、僕の本能が言っている。
――この件は、早急に片付けるべし、と……。

(……了解)

自分の本能に返事をしつつ、僕はその建物に脚を踏み出した。低姿勢で。

 

407: ◆9XBVsEfN6xFl 2014/08/12(火)21:27:46 ID:HP3JlSZpP

 

一階正面には受付の女性が座っていた。
とりあえず、しずかちゃんとの謁見を申し入れてみることにした。

「あ、あの……」

「はい。いかがいたしました?」

「ここで働いている、源しずかさんとお会いしたいのですが……」

「失礼ですが、ご用件をお伺いしてよろしいですか?」

「ご、ご用件……」

……言えない。
とても、『先日遭難を助けたのは実は子供のころの自分だったからそれを伝えに来た』なんて言えない。
言えるはずもないだろう……

「……あの、ご用件は?」

さすがの受付の人も、不信感に満ちた視線を送り始めていた。
もう少ししたら、おそらく警備員が直行してくるだろう。

それはマズイ。さすがにマズイ。
かと言って、なんて説明すればいいかも分からない。

それでも、このまま通報されるくらいなら……僕は、腹をくくった。

「……あの、実は先日―――」

「―――おやぁ?キミは、いつぞやの―――」

意を決し、途轍もなく嘘くさい純然たる本当の用件を口にしようとした直後、背後から声がかかる。
ゆるりと後ろを振り返れば、どこかで見た人が……

「―――ええと、舞……さん?」

「よっ、のび太!久しぶりだねえ!」

舞さんは、相変わらずの笑みを見せながら、僕に挨拶をした。

 

411: ◆9XBVsEfN6xFl 2014/08/12(火)21:42:23 ID:HP3JlSZpP

 

「――残念だったな。急な用件か?」

「そ、そうではないですが……」

会社の屋上で、僕と舞さんは柵に寄りかかりながら話をしていた。
そこで舞さんは、しずかちゃんが出張中でいないことを告げてきた。
完全に予定が外れた僕は、残念な気持ち半分、ホッとした気持ち半分の、
複雑な心境で缶コーヒーを一口飲み込んだ。

「事前に連絡してれば、ちゃんとした日付を指定してやれたんだがな」

「……いや、舞さんがいたことをすっかり忘れてまして……」

「……ケンカ売ってるのか?」

「滅相もありません。すみませんでした」

「まったく……あれだけ心躍る出会いをしたというのに、忘れるとは……」

(衝撃的な出会いだったのは間違いないけど……)

すると舞さんは体を反転させ、外の方を見ながらタバコを吸い始めた。

「タバコ、吸うんですね……」

「まあな。まあ、印象はよくないから、人前だとあまり吸わないがな」

「確かに、見る人が見れば批判しそうですね。……でも、似合ってますよ」

「フォローしてるつもりか?」

「滅相もありません」

「……少しはフォローしろ」

それから僕らは、屋上から街を見渡した。

 

421: ◆9XBVsEfN6xFl 2014/08/12(火)22:06:14 ID:HP3JlSZpP

 

「どうだ?会社の方は」

「普通ですよ。怒られてばかりですけど」

「そうだろうな。キミを部下に持つと、色々と苦労しそうだ」

「……やっぱり、そう見えますか?」

僕の言葉に、舞さんは声を上げて笑う。

「スマンスマン。――だが、上司はキミを可愛がってくれてるだろ?キミを邪魔とは思ってないよ」

(可愛がってくれてるかどうかは分からないけど、助けてくれることは多いかも………って――)

「なんで知ってるんですか?」

「ハハハ、知ってるわけじゃないよ。ただ、しずかが言ってたのが本当だとするなら、キミは誰かに嫌われたりすることの方が少ないだろうからな」

「は、はあ……」

「本当だぞ?何しろ、私もキミに好印象を持っている。……どうだ?ありがたいだろ?」

「………」

何だか恥ずかしくて、何も言えなかった。

 

422: ◆9XBVsEfN6xFl 2014/08/12(火)22:06:42 ID:HP3JlSZpP

 

そんな僕を見た舞さんは、一度笑みを浮かべた。

「……しずかはな、会社に入ったころから、キミのことを話してたよ」

「……僕のことを、ですか?」

「ああ。小さい頃からずっと一緒にいた男の子の話だ。――いつもはドジで、頼りなくて、オドオドしてて、見ていてほっとけなくなるそうだ」

「ははは……」

失笑が込み上げる。

「……でもな、困った時は一緒に悩んでくれて、悲しい時は一緒に泣いてくれて、嬉しい時は誰よりも喜んでくれる……そんなとても暖かくて、優しい男の子だそうだ」

「……買いかぶり過ぎですよ」

「謙遜することはない。事実、私もそう思う。……しずかがキミのことを話すときは、いつも幸せそうな顔をしていた。その顔は、しずかのどんな表情よりも、慈愛に満ちていたよ」

(……しずかちゃん……)

「――キミはきっと、近くにいる者を優しい気持ちにさせる人なんだろう。だから、キミの心に触れた人は、そこから離れようとはしない。キミという光の元に、いつまでもいたいと思ってしまうんだろうな。ハハ、ちょっとクサかったな」

「い、いえ……」

「キミは、それに対して自信を持っていいんだ。それはキミの、誇れることなんだ。……私は、そう思う」

「………」

「話が逸れてしまったな。……すまないが、私は仕事に戻らないといけない。まあ、なんもないところだけど、ゆっくりしていけ」

「は、はあ……」

「じゃあな、のび太……」

舞さんは、屋上を後にした。

残された僕は、舞さんの言葉に少し照れながらも、屋上から街を見下ろす。
そして、手に持っていた缶コーヒーを一気に飲み干した。

少しだけ苦い。だけど、口の中には、とてもいい香りが広がっていた。

 

426: ◆9XBVsEfN6xFl 2014/08/12(火)22:26:25 ID:HP3JlSZpP

 

会社を後にした僕だったが、結局肝心の用件は終わっていなかった。
何しろしずかちゃんは不在だったわけだし。
出張からいつ帰るかも聞き忘れてしまっていた僕は、ただしずかちゃんからの返信を待つことにした。
ケータイを開けば、否が応でも気が付くだろう。

とぼとぼ歩いて家に帰っていたが、ふと、ケータイの着信がけたたましく鳴り始めた。
取り出して見てみれば、パネルには“花賀咲子”の名前が。

(なんだろ……)

気になった僕は、とりあえず電話に出ることにした。

「もしもし」

『もしもしのび太くん?今、電話大丈夫?』

「うん。大丈夫だけど……どうしたの?」

『ええとね……その……』

電話の向こうで、咲子さんは煮え切らない口調で何かを言おうとしていた。

(……?なんだろう……)

不思議に思っていると、電話口で深呼吸する音が。そして……

『……あのね、今晩、時間ある?』

「え?ああ、うん。時間あるよ」

『じゃあさ……ご飯、食べない?』

「食べに行くの?いいよ」

『そうじゃなくて!ええと……』

再び、モジモジモード突入。あまり急かすのも悪いから、黙って彼女の言葉を待つ。
しばらく待っていると、彼女はようやく、用件を伝えて来た。

『……私の家に、食べに来ない?』

「………へ?」

 

439: ◆9XBVsEfN6xFl 2014/08/12(火)22:46:52 ID:HP3JlSZpP

 

「こ、ここが……!!」

とある住宅街の一角にあるマンション……僕は、その前に立っていた。
さしずめ王様に褒美をもらう前の勇者か、はたまた魔王との戦いを目前に控えた勇者か……
どちらしても、僕は勇者という器ではないのだが。

それはいいとして、なぜか急に自宅に招かれることに。
彼女情報によると、実家は他所にあるらしく、現在はルームシェアをして住んでいるとか。
そして同居人が今日は仕事で遅くなるため、一人で食べるのも寂しいし、
せっかくだから一緒にどう?的な話の流れとなったわけだ。

……ちなみに、それを理解するのに、数十分を要していた。
極度の恥ずかしがり屋症候群に陥った彼女の言葉は、中々解読が困難なのだ。

「……さて、行くか……」

生唾を飲み込み、僕はその場所に侵攻した。

マンションはオートロック式であったため、エントランスにあるインターホンで彼女の部屋の番号を押す。

『――はぁい』

彼女の声だ。

「ええと……の、のび太だけど……」

『あ!い、いらっしゃい!ちょっと待ってね―――』

彼女の言葉に続き、自動ドアが開く。

『……いいよ。入ってきて』

「おじゃまします……」

まだ彼女の部屋についたわけではないのに、なぜかそう言ってしまった僕は、やはり緊張しているのだろうか。

何はともあれ、僕はついに彼女の部屋へと向かうことになったのだった。

 

445: ◆9XBVsEfN6xFl 2014/08/12(火)22:54:56 ID:HP3JlSZpP

 

(ここが、彼女の部屋……)

部屋の前に立ち尽くす。目の前に扉があるのに、凄まじく遠くに感じる。
どうやら僕は、相当緊張しているようだ。
それもそうだろう。しずかちゃん以外の部屋に入るのは、これが初めてだった。
ちなみに、しずかちゃんの部屋も、中学に入ってからは入ってはいない。
そう言う意味では、女性の部屋に入ること自体が、初めてと言えるのかもしれない。

おそるおそる呼び鈴を押す。

「――は、はい!ちょっと待って――!!」

中から玄関に、小走りする音が響いて来る。
そして……

「お待たせ!!」

ドアは内側から勢いよく開かれた!!
―――僕の顔にぶつかりながら……
少し、ドアに近付き過ぎていたようだ。

「ああ!ごめん!……大丈夫?」

悶絶する僕を心配する彼女に、とりあえず痛みに耐えて笑顔を見せた。

「……う、うん。大丈夫だよ」

「………」

彼女は、僕の顔を見つめる。

「……のび太くん……」

「え?な、なに?」

「――鼻血出てるよ!!」

「え?――――ああああ!!」

二人でギャーギャー騒ぎながら、すぐさま家に上がり込み、止血をした。

……初めて彼女の部屋に訪れた僕は、いきなり、鼻血の治療をすることになった。

(か、カッコ悪い……)

 

450: ◆9XBVsEfN6xFl 2014/08/12(火)23:08:11 ID:HP3JlSZpP

 

「……ホントにゴメンね……大丈夫?」

治療を終えた彼女は、申し訳なさそうに声を出す。

「いや、そもそも僕が悪いんだし。心配かけてゴメンね」

「ううん。大したケガじゃなくて本当に良かった……」

そう言って、彼女は胸を撫で下ろした。

そこでようやく、彼女の部屋を見渡してみる。
部屋は、実に女の子らしい部屋だった。
家の至る所に、ぬいぐるみが置かれている。
きちんと掃除も行き届いているし、散らかってる様子は一切ない。

部屋の中では、仄かに甘い香りが広がる。
どうやったらこんな香りが充満するのか、ぜひ知りたいところだ。

その香りの中には、何やら不思議な香りが混じっていた。

「ん?この香り……」

「うん。もう料理出来てるよ」

そう嬉しそうに話すと、彼女は小走りでキッチンへと向かう。
そして皿を取り出し、よそおい始めた。

そのキッチンで、僕のためにいそいそと料理を作る彼女の姿を想像しただけで、なんだか幸せな気持ちになる。

「――お待たせ」

準備が終わったところで、彼女は少し恥ずかしそうにそう呟いた。

「こ、これは……!!」

目の前にテーブルには、所狭しと料理が並ぶ。どれもこれも美味しそうだ。美味しそうだが……!!

(す、凄まじい量だ……!!)

テーブルは中々広い。そこに隙間なく埋められた料理の数々。これは、何人分だろうか……

「いっぱい作ったから、たくさん食べていいよ!」

嬉しそうに話す彼女。嬉しいさ。それは嬉しいけど、ちょっと食べきれそうにはない。
それでも、彼女が一生懸命作ってくれたものだ。
僕は、残さず食べることを決意する。まさに、決死の覚悟だった。

【2ch名作SS】のび太「ドラえもんが消えて、もう10年か……」 (3)

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