【2ch最強のオカルト:その5】危険な好奇心(2)







このエントリーをはてなブックマークに追加


548 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/05/05(金) 05:31:11 ID:8b48b6KiO


これは動物の本能なのだろうか?

肉食獣を見つけた草食動物のように、俺はとっさにしゃがみ込んだ。
全身が無意識に震えていた。
『中年女』からこちらは見えているのか?
『中年女』はしばらく室内を覗き、そのままの体勢で、ゆっくりと窓の中心まで移動して来た。

そしてキュルキュルキュルと、嫌な音が窓からしてきた。
『中年女』の右手が窓を擦っている。左手は依然、目元にあり、室内を覗きながら。
キュルキュルキュル
嫌な音は続く。俺の恐怖心はピークに達した。
何かわからないが、『中年女』の奇行に恐怖し、その恐怖のあまり、声を出す事すら出来なかった。

すると『中年女』は後ろを振り返り、凄い勢いで走り去って行った。
俺は何が起きたかわからず、身動きも出来ずに、ただ窓を見ていた。
すると窓の向こうの道路に、赤い光がチカチカしているのが見えた。
「警察が来たんだ!」
俺は状況が飲み込めた。
偶然通りかかったパトカーに気付き、『中年女』は逃げて行ったんだと。

しばらく俺はしゃがみ込んだまま震えていた。
プルルルルル!
その時、電話が突然鳴った。もう心臓が止まりかけた。
ディスプレイを見ると、慎の自宅からの電話だった。

 

 

551 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/05/05(金) 05:47:22 ID:8b48b6KiO

俺は慌てて電話に出た。

『どう?』
『なんか部屋覗いとったけど、どっか行った・・・』
『そっか、親帰って来たんか?』
『いや、たまたまパトカー通って、それにビビって中年女逃げたんや思う』
『そーなんや!良かった。俺、お前んちの近くに不審者がいるって、通報しといてん。でも、あいつに家バレたんやったら、そろそろ親にも相談しなあかんかもな・・・』
『・・・』
『俺も今日、親に言うから・・・お前も言えよ!もうヤバイよ!』
『・・・うん・・・』
そして電話を切った。

その30分後、母親がパートから帰って来た。
俺は部屋の電気を消したまま玄関に走り、母の顔を見た瞬間、安堵感からか泣き出した。
母親はキョトンとしていたが、俺はしばらく泣き続けた後、
『ごめんなさい』と冒頭に謝罪をし、『あの夜』の出来事から、さっきの出来事まで説明した。
説明の途中に父親も帰宅し、父には母が説明した。

その後、父が無言で和室の窓硝子を見に行った。
窓硝子は、鋭利な何かで凄い傷が付けられていた。
鋭利な何かが五寸釘だと、直感でわかった。
両親は俺を叱らず、母親は俺を抱きしめてくれ、父は警察に電話をかけていた。

 

 

679 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/05/06(土) 02:25:17 ID:BiI+Rh5RO

10分程してから警察が来た。

警察には父が事情を説明していた。
俺は母親と居間にいたが、少ししてから警官が居間に来て、あの夜の事を聞いてきた。
ハッピーとタッチの事、木に釘で刺された少女の写真の事、淳の名前が秘密基地に彫られていたこと・・・

その後、放課後に出会った事など、『中年女』に係わる全ての事を話した。
そして、さっきの出来事も。
鑑識らしき人も来ていて、俺が話している間に窓の指紋を採取していた。
俺が話した内容で、警官がもっとも詳しく聞いてきたことが、少女の写真の事だった。
その少女の容姿や面識の有無等聞かれたが、それについては『よく分からない』と答えるしかなかった。
そして裏山の地図を書かされ、翌日、警察が調べに行くと言う事になり、
自宅周辺の夜間パトロール強化を約束して、警察官は帰っていった。
結局、指紋は出なかった。

しばらくして、慎と淳の親から電話がかかってきた。
親同士で何やら話していたが、
『中年女』に関する話というより、学校にどのように説明するかを話していたようだ。

 

 

686 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/05/06(土) 02:56:49 ID:BiI+Rh5RO

その夜、俺は何年かぶりに両親と共に寝た。

恥ずかしさなど微塵も無く、純粋に『中年女』が怖く、なかなか寝付け無かった。

次の日の朝、母親に起こされた時には、すでに午前8時を回っていた。
『遅刻する!』と慌てると、母が『今日は家で寝てなさい』と言う。
どうやら既に学校に事情を話したらしい。
父はすでに出社していたが、母はパートを休んでいた。

慎や淳も今日は学校を休んでいるだろう・・・と思ったが、あえて電話はしなかった。
慎は恐らく、厳格な両親に怒られている。
淳の両親は、不登校になった淳の真実を知りショックを受けている。
と思うと、電話するのが恐かったから。

俺は自室に篭り、『中年女』が早く警察に捕まることだけを願っていた。
一時も早く、追い詰められる恐怖から解放されたかった。
母親は何故か、『中年女』の事を口にしてこなかった。
俺への気配り?と思い、俺も何も言わなかった。

昼飯を食べ、ふたたび自室に篭っていると、ドスっと家の外壁に鈍い音が響いた。
俺はとっさに、慎だ!と思った。
あいつは俺を呼び出す時、玄関の呼鈴を鳴らさず、窓に小石を投げてくる事がしばしばあったからだ。

 

 

688 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/05/06(土) 03:14:45 ID:BiI+Rh5RO

俺は窓から外を眺めた。

家の前の路地にある電柱に慎がいるはず!と思ったが、慎の姿は無かった。
どこかに隠れているのかと思い、見える範囲で捜したが何処にもいない。
その時、俺の部屋の下にあたる庭先から、『キャ!』と母親の声がした。
びっくりして窓を開け、身を乗り出して下を見た。
そこには母親が、地面を見つめながら口元に手を当てがい、何かを見て驚いていた。

俺は何が起こっているのか分からず、『どーしたの!』と聞いた。
母は俺の声にギクッと反応し、こちらを見上げ、驚いた表情で無言のまま家の外壁を指差した。
俺は良からぬ感じを察したが、母の指差す方向を見た。
そこには何やら、ドロっとした紫色した液体と、ゼリー状の物が付いていた。
先程のドスっの音の正体であろう。
視線を母の足元に落とし、その何かを捜した。

そこには、内蔵が飛び出た大きな牛蛙の死体が落ちていた。
母はしばらく呆然と立ち尽くしていた。
俺はすぐに『中年女』が頭に浮かんだ。
すぐに目で『中年女』の姿を捜したが、何処にも姿は見えなかった。
母はふと思い出したように居間に駆け込み、警察に電話をした。

 

 

690 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/05/06(土) 04:34:37 ID:BiI+Rh5RO

母は青い顔をしていた。恐らくこの時始めて、『中年女』の異常性を知ったのだろう。

そうだ、あの女は異常なんだ。
きっと今も蛙を投げ込んできた後、俺や母の驚く姿を見てニヤついているはず・・・
きっと近くから俺を見ているはず・・・
鳥肌が立った。

警察早く来てくれ!
心の中で叫んだ。
もうこの家は家では無い。
『中年女』からすれば鳥籠のように、俺達の動きが丸見えなんだ。
常に見られているんだと感じ出した。

しばらくしてパトカーがやってきた。昨日とは違う警官二人だった。
警官一人は、外壁や投げ込んで来たであろう道路を何やら調べ、
もう一人は俺と母に、『何か見なかったか?』『その時の状況は?』などなど、漠然とした事を何度も聞いて来た。

最後に警官が、不安を煽るような事を言って来た。
『たしか、昨日もいやがらせを受けているんですよね?おそらく犯人は、すぐにでも同じような事をしてくる可能性が高いです』と。
俺はたまらず、
『あの呪いの女なんです!コートを着てる40歳ぐらいの女なんです!早く捕まえてください!』
と半泣きになって懇願した。

 

 

774 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/05/07(日) 04:31:16 ID:UOWDTjZwO

すると警察官は、

『さっきね、山を見てきたんだよ・・・犬の死体も、板に彫られたお友達の名前も、あと女の子の写真もあったよ。今からそれを調べて、必ず犯人捕まえるから!』
と言い、俺の肩をポンと叩くと、母の元へ行き何やら話していた。
『主人に連絡を・・・』みたいな事を言われていたようだ。
壁に付いた蛙の染み、及びその死体の写真を撮り、1時間程で警官達は帰って行った。

しばらくして父親が帰宅した。まだ5時前だった。昨日の今日だから心配になったのだろう。
夕食の準備をしている母も、夕刊を読んでいる父も無言だったが、どことなくソワソワしているのが分かった。
もちろん俺自身も、次にいつ『中年女』が来るのか不安で仕方なかった。
その日の晩飯は家族皆が無口で、只テレビの音だけが部屋に響いていた。

そして夜11時過ぎ、皆で床に就いた。
用心の為、一階の居間は電気を点けっぱなしにしておくことになった。

 

 

775 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/05/07(日) 04:40:45 ID:UOWDTjZwO

その夜も家族揃って同じ部屋で寝た。

もちろんなかなか寝付けなかった。

どれぐらい時間が過ぎただろう。
突然玄関先で、『オラァー!!』とドスの効いた男の声とともに、
『ア゛ー!ア゛ー!』と聞き覚えのある奇声、『中年女』の叫び声が聞こえた。
俺達家族は皆飛び起き、父が慌てて玄関先に向かった。
俺は母にギュッと抱き締められ、二人して寝室にいた。
カチャカチャ・・・ガラガラガラガラ!
父が玄関の鍵を開け、戸を開ける音がした。

 

 

782 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/05/07(日) 04:55:14 ID:UOWDTjZwO

戸を開ける音と共に、

『ア゛ー!!チキショー!ア゛ァー!!ア゛ァァァァ!』
再び『中年女』の叫びが聞こえて来た。
『大人しくしろ!』『オラ!暴れるな!』と、男の声もした。
この時、俺は『警官だ!警官に捕まったんだ!』と事態を把握した。

中年女は奇声を上げ続けていた。
俺はガクガク震え、母の腕の中から抜けれなかったが、
父親が戻って来て、
『犯人が捕まったんだ。お前が山で見た人かどうかを確認したいそうだが・・・大丈夫か?』と 尋ねてきた。
もちろん大丈夫ではなかったが、これで本当に全てが終わる。終わらせることが出来る!と自分に言い聞かせ、
『・・・うん』と返事し、階段をゆっくりと降り、玄関先に向かった。

玄関先から、
『オマエーっ!チクショー!オマエまで私を苦しめるのかー!』
と、凄い叫び声が聞こえ、足がすくんだが、
父が俺の肩を抱き、二人の警官に取り押さえられた『中年女』の前に俺は立った。

 

 

791 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/05/07(日) 05:10:12 ID:UOWDTjZwO

俺は最初、恐怖の余り、自分の足元しか見れなかったが、

父に肩を軽く叩かれ、ゆっくりと視線を『中年女』に送った。
両肩を二人の警官に固められ、地面に顎を擦りつけながら、『中年女』は俺を睨んでいた。
相当暴れたらしく、髪は乱れ、目は血走り、野犬の様によだれを垂れていた。

『オマエー!オマエー!どこまで私を苦しめるー!』

訳のわからない事を『中年女』は叫び、ジタバタしていた。
それを取り押さえていた警官が、『間違いない?山にいたのはコイツだね?』と聞いてきた。
俺は中年女の迫力に押され、声を出すことが出来ず、無言で頷いた。
警官はすぐに手錠をはめ、『貴様!放火未遂現行犯だ!』と言った。

手錠をはめられた後も、ずっと奇声を発し暴れていたが、警官が二人掛かりでパトカーに連行した。
そして一人だけ警官がこちらに戻って来て、『事情を説明します』と話し出した。

 

 

802 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/05/07(日) 05:27:36 ID:UOWDTjZwO

警官『自宅前をパトロールしてると、玄関に人影が見えまして、あの女なんですけど・・・しゃがみ込んで、ライターで火を付けていたんですよ。玄関先に古新聞置いてますよね?』

母『いえ、置いてないですけど・・・?』
警官『じゃあ、これもあの女が用意したんですかねー?』と指差した。
そこには新聞紙の束があった。確かに、うちがとっている新聞社の物では無かった。
警官が『ん?』と何かに気付き、新聞紙の束の中から何かを取り出した。

木の板。
それには『○○○焼死祈願』と、俺のフルネームが彫られていた。
俺は全身に鳥肌が立った。やはり俺の名前を調べ上げていたんだ。
もし警察がパトロールしていなかったら・・・ と、少し気が遠くなった。
母は泣きだし、俺を抱き締めて頭を撫で回してきた。
警官はしばらく黙っていたが、
『実はあの女・・・少し精神的に病んでまして・・・○○町にすんでいるんですけど、結構苦情・・・まぁ、同情の声というのもあるんですがねぇ・・・』
と、中年女の事を語りだした。

 

 

810 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/05/07(日) 05:55:14 ID:UOWDTjZwO

『あ
の女、1年前に交通事故で、主人と息子を亡くしてまして・・・それ以来、情緒不安定と精神分裂症というか・・・まぁ近所との揉め事なども出てきだしまして
ね。山で発見された少女の写真で、あの女の特定は出来ていたんですよ。二年前の交通事故・・・あの少女が道路に飛び出してきて、ハンドルをきって壁に衝
突。それで主人と息子が亡くなったんですよ・・・飛び出した少女は無傷で助かったんですが・・・以来、あの少女の家にも散々嫌がらせをしているんですよ。
ただ事故が事故なだけに、少女の家からは被害届けはでてないんですが・・・あの少女を相当怨んでいるんでしょうね・・・』

俺はその話を聞き、同情などは一切出来なかった。
むしろ『中年女』の執念深さがヒシヒシと伝わってきた。
何よりも、警官も認める情緒不安定・精神分裂症。
これでは、すぐに釈放になるのではないか?
釈放後、また『中年女』の存在に怯え生きていかなければならないのか?
警官の話を聞き、安堵感よりも絶望感が心に広がった。

 

 

813 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/05/07(日) 06:10:00 ID:UOWDTjZwO

それから5年。

俺、慎、淳は、それぞれ違う高校に進んでいた。
俺達はすっかり会うことも無くなり、それぞれ別の人生を歩んでいた。
もちろん、『中年女』事件は忘れることが出来ずにいたが、恐怖心はかなり薄れていた。

そんな高一の冬休み、ひさしぶりに淳から電話が掛かってきた。
『おう!ひさしぶり!』
そんな挨拶も程ほどに、
『実は単車で事故ってさぁ・・・足と腰骨折って入院してんだよ』
『え?!だっせーな!どこの病院よ?寂しいから見舞いに来いってか?』
『まぁ、それもあるんだけどさぁ・・・お前、『中年女』の事って覚えてる?事件の事じゃなくってさぁ・・・顔、覚えてる?』
『何で?何だよ急に!』
『毎晩、面会時間終わってから・・・変なババァが、俺の事を覗きに来るんだよ・・・ニヤつきながら』

 

 

889 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/05/08(月) 04:07:08 ID:PxVIZDoHO

淳の発した言葉を聞いたとたんに、『中年女』の顔を鮮明に思い出した。

始めて出会った、あの夜の歯を食いしばった顔。
下校時に出会った、いやらしいニヤついた顔。
自宅玄関で見た、狂ったような叫び顔。
あれから忘れる努力をしていたが、決して忘れることの出来ないトラウマだった。
俺は淳に、『何言ってんだよ?!もう忘れろ!ほんっとオメーって気が小せぇーなぁ?!』と答えた。

自分自身にも言い聞かせるように。
『そーだよな・・・いや、こーゆーとこって、妙に気が小さくなるんだよ!』
『そーゆーとこ、変わってねーな!』と余裕を見せた。
俺自身も、あの日のまま成長していないが。

そして入院している病院を聞き、『近いうちに●本持って見舞いに行くよ!』と言い電話を切った。
電話を切った瞬間、何故か胸騒ぎがした。
『中年女』
淳の言葉が、妙に気に掛かりだした。

 

 

890 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/05/08(月) 04:12:16 ID:PxVIZDoHO

電話を切った後、しばらく考えた。

まさか、今更『中年女』が現れるはずが無い・・・
それにあいつは捕まったはず・・・いや、釈放されたのか??
というか、今思えば俺達三人は、『中年女』に何をしたわけでも無い。
ただ、『中年女』の呪いの儀式を見てしまっただけなのに、こちらの払った代償はあまりにも大きい。
偶然、夜の山で出会い、いきなり襲われた。

俺達は何一つ『中年女』から奪っていない。それどころか、傷付けてもいない。
『中年女』は俺達からハッピーとタッチを奪い、秘密基地を壊し、何より俺達三人に恐怖を植え付けた。
『中年女』がいくら執念深いといっても、さすがにもう俺達に関わってくるとは思えない。
こんなことを思うのも何だが、怨むなら写真の少女にベクトルが向くはず!
俺は強引に、俺自身を納得させた。

 

 

892 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/05/08(月) 04:33:09 ID:PxVIZDoHO

2日後、俺はバイトを休み、本屋で●本を3冊買ってから、淳の入院している病院に向かった。

久しぶりに淳に会うというドキドキ感と、淳が電話で言っていた事に対するドキドキ感で、複雑な心境だった。

病院に着いたのは昼過ぎだった。
淳の病室は三階。俺は淳のネームプレートを探し出した。
303号室の六人部屋に淳の名前があった。
一番奥、窓側の向かって左手に淳の姿が見えた。
『よう!淳、久しぶり!』
『おう!まぢひさしぶりやなぁ!』
思ったより全然元気な淳を見て少し安心した。
約束のエロ本を渡すと、淳は新しい玩具を与えられた子供の如く喜んだ。
そして他愛も無い話を色々した。
淳といると、小学生の頃に戻ったようでとても楽しかった。無邪気に笑えた。

あっという間に時間は経ち、面会終了時間が近づいてきた。
『んぢゃ、もうそろそろ帰・・・』と俺が言いかけると、
『実はさぁ、電話でも言ったんだけど』と淳が、真顔で何かを言いかけた。

 

 

893 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/05/08(月) 04:44:17 ID:PxVIZDoHO

『中年女の事だろ?』と俺は言った。

すると淳は、
『気のせいだとは思うんだけど・・・いつもこの時間に来るオバさんがいてさぁ・・・何かこう・・・引っ掛かるっつーか・・・』

俺は『だから気のせいだって!ビクビクすんなよ!』と強気な発言をした。
すると淳は少しカチンと来たのか、
『だから、勘違いかもしんねーっつってんぢゃん!ビビりで悪かったな!』
空気が重くなった。
俺は空気を読み、淳に謝ろうとした。

そのとき、
ガラガラガラ・・・
廊下に、台車のタイヤ音が響いた。
淳が『来た・・・』とつぶやく。
俺は視線を部屋の入口に向けた。
ガラガラガラ
台車は扉の前に止まったようだ。

そして、扉が開いた。
そこには、上下紺色の作業着を着たオバさんが居た。
俺は『何だよ!脅かすなよ!ゴミ回収のオバさんじゃねーか』と、少し胸を撫で降ろした。
そのオバさんは、患者個人個人のごみ箱のゴミを回収しだし、最後に淳のベットに近づいてきた。
淳が小声で『見てくれよ!』
俺はそのオバさんの顔をチラッと見た。

 

 

894 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/05/08(月) 04:49:40 ID:PxVIZDoHO

『・・・!』

俺は息を飲んだ。
似ている・・・いや、『中年女』なのか?
俺は目が点になり、しばらくその人を眺めていると、
そのオバさんはこちらを向き、ペコリと頭を下げて部屋を出て行った。
淳が『どう?やっぱ違うか?!俺ってビビりすぎ?』と聞いてきた。
俺は『全然ちげーよ!ただの掃除オバさんぢゃん!』と答えた。
いや、しかし似ていた。他人の空似なのか・・・?

 

 

215 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M :2006/05/09(火) 00:11:08 ID:nBGSDY0VO

『・・・んじゃ、そろそろ帰るわ!あんま変な事考えてねーで、さっさと退院しろよ!』と俺が言うと淳は、

『そだな・・・あの女が病院にいるわけねーよな。お前が違うって言うの聞いて安心したよ。また来てくれよ!暇だし!』
と元気よく言った。

俺は病室を出ると、足早に階段を駆け降りた。
頭の中から、さっきのオバさんの顔が離れない。
『中年女』の顔は鮮明に覚えている。
しかし、中年女の一番の特徴といえば、イッちゃってる感だ。

さっきのオバさんは穏やかな表情だった。
もし、さっきのオバさんが『中年女』なら、
俺の顔を見た瞬間にでも奇声をあげ、襲い掛かって来てもおかしくない。
そうだ。やっぱり他人の空似なんだ。
と考えつつ、なぜが病院にいるのが怖く、早々に家路についた。

 

 

522 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M :2006/05/10(水) 05:08:36 ID:r7yve5IpO

家に帰ってからも『中年女』=『掃除オバさん』の考えは払拭しきれなかった。

やはり気になる・・・
その日は眠りに落ちるまで、その事ばかり考えていた。

次の日、『掃除オバさん』の事が気になり、俺はバイトを早めに切り上げ、病院に行くことにした。
俺のバイト先からチャリで30分。
病院に着いたときには20時を回っていて、面会時間も過ぎていた。
もう、『掃除オバさん』も帰っている事は明白だったが、
臨時入口から病院に入り、とりあえず淳の病室に向かった。

こっそり淳の病室に入ると、淳のベットはカーテンを閉めきってあった。
寝たのか?と思い、そーっとカーテンを開けて、隙間から中を覗いた。
『うわっ!』
淳が慌てて飛び起き、『ビックリさせんなよ!』と言いながら、何かを枕の下に隠した。
淳は●本を熟読していたようだ。

 

 

523 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M :2006/05/10(水) 05:11:16 ID:r7yve5IpO

俺は敢えて●本の事には触れずに、『暇だろーと思って来てやったんだよ!』と淳の肩を叩いた。

淳は少し気まずそうに、『おぅ!この時間暇なんだよ!ロビーでも行って茶でもしよか?』と言った。
俺は車椅子をベットの横に持って来て、淳の両脇を抱え、淳を車椅子に乗せてやった。
淳が『ロビー一階だから、ナースに見つからんよーに行かんとな!』と小声で言った。
俺達はコソコソと、まるで泥棒の様に一階ロビーに向かった。
途中、何人かのナースに見つかりそうになる度、気配を消し、物陰に隠れ、やっとの思いでロビーに着いた。

昼間と違いロビーは真っ暗で、明かりといえば自販機と非常灯の明かりしかなく、
淳が『何か暗闇の中をお前とコソコソするの、あの夜を思い出すよなぁ』と言った。
『そだな。何であの時、アイツの事を尾行しちまったんだろーな・・・』と俺が言うと、淳は黙り込んだ。

 

 

525 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M :2006/05/10(水) 05:18:19 ID:r7yve5IpO

俺は今日病院に来た理由、すなわち、『掃除オバさん』の事について淳に言おうと思ったが、躊躇していた。

淳はこの先、1ヵ月近く此処に入院するのに、そのような事を言うのは・・・と。
またあの時のように、原因不明のジンマシンが出るかもしれない。

すると淳が、『お前、あのおばさんの事で来たんじゃないのか?』と。
俺はとっさに『え?何が?』ととぼけたが、
淳は『そーなんだろ?やっぱり似てる・・・いや、『中年女』かもしれないんだろ?』と、真顔で詰め寄って来た。
俺はその淳の迫力におされ、『たしかに似てた・・・雰囲気は全然違うけど・・・似てる』
淳はうつむき、『やっぱり。前にも電話で言ったけど・・・』と語り始めた。

 

 

653 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M :2006/05/12(金) 18:32:27 ID:ywb0WCOQO

淳は少し声のトーンを下げ、

『俺が入院して二日目の夜、足と腰が痛くて痛くてなかなか眠れなかったんだ。寝返りもうてないし、消灯時間だったし、仕方ないから、目つむって寝る努力をして
いたんだ。そして少し睡魔が襲ってきて、ウトウトし始めたとき、視線を感じたんだ。見回りの看護婦だろうと思って無視してたんだけど、なんか、ハァ・・・
ハァ・・・って息遣いが聞こえてきて、何だろう?隣の患者の寝息かなぁ?って思って、薄目を開けてみたんだよ。そしたら、俺のベットカーテンが3㌢程開い
てて、その隙間から誰かが俺を見ていたんだ。その目は明らかに、俺を見てニヤついてる目だったんだ。俺、恐くて恐くて、寝たふりしてたんだけど・・・そし
て、そのまま寝てたらしく、気付いたら朝だったんだ。後から考えたんだ。あのニヤついた目、どこかで見覚えが・・・そーなんだよ。『掃除オバさん』の目に
そっくりだったんだよ!』

 





656 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M :2006/05/12(金) 18:38:25 ID:ywb0WCOQO

ニヤついた目。俺はその目を知っている!

『中年女』に、そのニヤついた目つきで見つめられた事のある俺には、すぐに淳の言う光景が浮かんだ。
更に淳は話を続けた。
『それにあの『掃除オバさん』、ゴミ回収に来た時、ふと見ると、何かやたら目が合うんだ。俺がパッと見ると、俺の事をやたら見ているんだ。半ニヤけで・・・』
それを聞き、俺が抱いていた疑問、『中年女』=『掃除オバさん』は確信に変わった。
やっぱりそうなんだ。社会復帰していたんだ!
缶コーヒーを握る手が少し震えた。決して寒いからでは無い。体が反応しているんだ。
あの恐怖を体が覚えているんだ・・・。

 

 

701 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M :2006/05/13(土) 16:00:57 ID:kgXMFP4hO

その時、俺の後方から突如、光が照らされた。

『コラ!』
振り向くと、そこには見回りをしている看護婦が立っていた。
『ちょっと淳君!どこにもいないと思ったらこんなとこに!消灯時間過ぎてから、勝手に出歩いちゃダメって言ってるでしょ!それに、お友達も面会時間はとっくに過ぎてるでしょ!』
と、かなり怒っていた。

淳は『はいはい・・・んぢゃ、また近いうちに来てくれよな!』と、看護婦に車椅子を押され病室に戻って行った。
『おぅ!とりあえず、気つけろよ!』と言った。
俺もとりあえず帰るかと思い、入って来た急患用出入口に向かった。

それにしても、夜の病院は気味が悪い。
さっきまであの女の話をしていたからか?と思って歩いていると、
ん?廊下の先に誰かがいる。
あれは・・・
『掃除オバさん』・・・?
いや、『中年女』か?
『中年女』らしき女が何かしている。

 

 

704 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M :2006/05/13(土) 16:07:18 ID:kgXMFP4hO

間違いない!『中年女』だ!

この先の出入口付近で何かしている!
俺はとっさに身を隠し、『中年女』の様子を伺った。
どうやら俺には気付かず、何かをしているようだ。
中腰の態勢で何かをしている。
俺は目を凝らし、しばらく観察を続けた。

何か大きな袋をゴソゴソし、もう一方に小分けしている?
尚も『中年女』はこちらに気付く様子も無く、必死で何かしている。
ひょっとして、病院内の収拾したゴミの分別をしているのか?
(俺達の地元は、ゴミの分別がルールとなっている)

その時に後ろから、
『ちょっと、まだいたの?私も遊びじゃないんだから、いい加減にして!』と、さっきの看護婦が。
俺はドキッとし、『あ、いや、帰ります!どーも・・・』と言い、出入口に目をやると、
『中年女』はこちらに気付き、ジィーっとこちらを見ていた。

 

 

706 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M :2006/05/13(土) 16:09:33 ID:kgXMFP4hO

『まったく!』

看護婦はそう吐き捨て、再び見回りに行った。
いや、それどころでは無い!『中年女』に見つかってしまった!
どうすればいい?
逃げるべきか?
先程の看護婦に助けを求めるべきか?

俺の頭はグルグル回転し始め、心臓は勢いを増しながら鼓動した。
俺は『中年女』から目を離せずにいると、『中年女』は俺から視線を外し、
何事も無かったように、再びゴミの分別作業をし始めた。
『え!?』
俺は躊躇した。その想定外の行動に。
俺の頭には、
『襲い掛かってくる』
『俺を見続ける』
『俺を見てニヤける』
と、相手が俺に関わる動向を見せると思っていたからである。

俺はしばらく突っ立ったまま、『中年女』を見ていたが、
黙々とゴミの分別をしていて、俺のことなど気にしていないようだった。
『何かの作戦か?』と疑ったが、俺の脳裏にもう一つの思考が浮かんだ。
『中年女』≠『掃除オバさん』?
やはり、似ているだけで別人・・・?!

 

 

708 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M :2006/05/13(土) 16:11:46 ID:kgXMFP4hO

俺と淳が疑心暗鬼になりすぎていたのか?!

やはり『中年女』とは赤の他人の別人なのか?
そう一人で俺が考えている間も、その女は黙々と仕事をしている。
俺は意を決して、出入口に歩き出した。すなわち、『その女』の近くに・・・

少しずつ近づいてくるが、相手は一向にこちらを見る気配が無い。
しかし、俺はその女から目を離さず歩いた。
あっという間に何事も無く、俺はその女の背後まで到達した。
女は一生懸命ゴミの分別をしている。
手にはゴム手袋をハメて、大量のゴミを『燃える』『燃えない』『ペットボトル』に分けていた。
 
その姿を見て俺は、やはり別人か・・・と思っていると、
その女はバッ!っとこちらを見て、『大きくなったねぇ~』と俺に話し掛けてきた。
俺は頭が真っ白になった。
大きくなったねぇ?オオキクナッタネェ?
この人は俺の過去を知っている??
この人、誰?
この人、『中年女』?
こいつ、やっぱり『中年女』!!

 

 

709 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M :2006/05/13(土) 16:14:23 ID:kgXMFP4hO

その女は作業を中断し、ゴム手袋を外しながら俺に近寄ってくる。

その表情はニコニコしていた。
俺はどんな表情をすればいい???
きっと、とてつもなく恐怖に引きつった顔をしていただろう。
女は俺の目前まで歩み寄って来て、
『立派になって・・・もう幾つになった?高校生か?』と尋ねてきた。
俺はこの女の発言の意味が判らなかった。

何なんだ?
俺をコケにしているのか?
恐怖に引きつる俺を馬鹿にしているのか?
何なんだ?
俺の反応を楽しんでいるのか?

俺が黙っていると、
『お友達も大きくなったねぇ・・・淳くん。可哀相に骨折してるけど。お兄ちゃんも気付けなあかんよ!』
と言ってきた。
もう、意味が全く解らなかった。数年前、俺達に何をしたのか忘れているのか?
俺達に恐怖のトラウマを植え付けた本人の言葉とは思えない。
女は尚もニヤニヤしながら、『もう一人いた・・・あの子、元気か?色黒の子いたやん?』
『!!』慎の事だ!
何なんだコイツは!
まるで久しぶりに出会った旧友のように。
普通じゃない。
わざとなのか?
何か目的があって、こんな態度を取っているのか?

 

 

898 :ハッピー・タッチ ◆XhRvhH3v3M :2006/05/16(火) 05:10:19 ID:RGbZkkkIO

俺は『中年女』から目を逸らさず、その動向に注意を払った。

こいつ、何言ってるのか分かってるのか?
『あの時はごめんね・・・許してくれる?』と中年女は言いながら、俺に近づいてくる。
俺は返す言葉が見つからず、ただ無言で少し後退りした。
『ほんまやったら、もっと早くあやまらなあかんかってんけど・・・』
俺は耳を疑った。

こいつ、本気で謝罪しているのか?
それとも何か企んでいるのか?
ついに『中年女』は、手を伸ばせば届く範囲にまで近づいてきた。
『三人にキチンと謝るつもりやったんやで・・・ほんまやで・・・』と言いながら、ますます近づいてくる!
もう息がかかる程の距離にまで近づいた。
あの時とは違い、俺の方が身長は20㌢程高く、体格的にも勿論勝っている。
俺は『中年女』に指一本でも触れられたら、ブッ飛ばしてやる!と考えていた。

 

 

902 :ハッピー・タッチ ◆XhRvhH3v3M :2006/05/16(火) 05:54:02 ID:RGbZkkkIO

『中年女』は俺を見上げるような形で、俺の目を凝視してくる。

しかし、その目からは『怨み』『憎しみ』『怒り』など感じられない。
真っ直ぐに俺の目だけを見てくる。
『あの時はどうかしててねぇ、酷い事したねぇー・・・』と、『中年女』は謝罪の言葉を並べる。
俺はもう、 その場の『緊張感』に耐えれず、ついに走りだし、その場を去った。

走ってる途中、もし追い掛けられたら・・・と後ろを振り向いたが、『中年女』の姿は無く、
ある意味拍子抜けた。
走るのを止め、立ち止まり考えた。
さっきのは、本当に本心から謝っていたのか?
俺は『中年女』を信じることが出来なかった。疑う事しか出来なかった。
まぁ、あの事件の事があるから当たり前だが。

俺は小走りで、先程の場所近くに戻ってみた。
そこには再びゴム手袋をはめ、大量のゴミの分別をする『中年女』の姿があった。
こいつ、本当に改心したのか?
必死に作業をする姿を見ると、昔の『中年女』とは思えない。
とりあえず、その日はそのまま帰宅した。

 

 

186 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/05/25(木) 09:13:15 ID:JIG/s1vbO

俺は自室のベットに横になり、一人考えた。

人間は、あそこまで変わることが出来るのか?
昔、鬼の形相でハッピー・タッチを殺し、俺を、慎を、淳を追い詰め、放火までしようとした奴が。
『ごめんね』など、心から償いの言葉を発することが出来るのか。

いや、ひょっとしてあの事件をきっかけに、俺が変わってしまったのか?
疑心暗鬼になり、他人を信じる事が出来ない、『冷たい人間』になってしまったのか?
『中年女』の謝罪の言葉を信じることで、あの事件の精神的な呪縛から解放されるのか?
もう一度『中年女』に会い、直接話すべきだ。
俺は『中年女』にもう一度会うこと、今度は逃げないこと!と決意を固め、その日は就寝した。

 

 

187 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/05/25(木) 09:15:28 ID:JIG/s1vbO

次の日、俺はバイトを休み病院に行った。

まずは淳の病室に入り、昨日の出来事を説明した。
そして、今日は『中年女』に会い、直接話してみるつもりだ。と言う事を伝えた。
淳は最初、「『中年女』は変わっていない!」と俺の意見に反対だったが、
『このまま一生、中年女の存在に怯え、トラウマを抱えたまま生きていくのか?』と俺が言うと、
『・・・『中年女』に会って話すんだったら、俺も付き合う・・・』と言ってくれた。

 

 

218 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/05/29(月) 02:59:44 ID:/lsJmPn1O

しばらく沈黙が続いた。

刻々と時間は過ぎ、面会時間終了のチャイムが鳴ると同時に、
ガラガラガラ・・・
廊下の奥の方から、ゴミ運搬台車の音が聞こえてきた。
『来たな・・・』
淳がボソッと呟いた。

俺は固唾を飲んで、部屋の扉へ視線を送った。
ガラガラガラ
台車の音が部屋の前で止まった。
部屋の扉が開いた。
作業服の『中年女』、が会釈しながら入室してきた。俺と淳はその姿を目で追った。
『中年女』は、奥のベットから順にゴミ箱のゴミを回収し始めた。
『ごくろうさん』と患者から声を掛けられ、笑顔で会釈をする中年女。
とても昔の『中年女』と同一人物とは思えない。

そしてついに、淳のベットのゴミ回収に『中年女』がやってきた。

 

 

219 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/05/29(月) 03:20:27 ID:/lsJmPn1O

『中年女』はこちらに一切目を合わせず、軽く会釈をし、ゴミを回収し始めた。

俺は何と声を掛けていいのかわからず、しばらく中年女の様子を伺っていたが、
淳が『おばさん!どーゆーつもりだよ?』と 切り出した。
中年女はピタッと作業の手を止め、俯いたまま静止した。

淳は続けて、『あんた、俺の事覚えてたんだろ?俺には謝罪の言葉一つも無いの?』
俺はドキドキした。まさか淳が急にキレ口調で話すなんて、予想外だった。
中年女は俯いたまま、『ごめんねぇ・・・』と、か細い声を出した。
淳はその素直な返答に驚いたのか、キョトンとした目で俺を見て来た。

俺は『おばさん・・・本当に反省してるんだよね?』と聞いてみた。
すると中年女はこちらを向き、
『本当にごめんなさい。私があんな事したから淳君、こんな事故に遭っちゃって・・・私があんな事したから・・・ほんとゴメンね!』と。
俺と淳は更にキョトンとした。何か話がズレてないか?
俺は『いや、昔あんた、犬に酷い事したり、俺ん家にきたり、すべてひっくるめて!』と言った。

 

 

221 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/05/29(月) 03:44:26 ID:/lsJmPn1O

中年女は、

『本当にごめんなさい!私が、私があんな事さえしなければ・・・こんな事故・・・ごめんね!本当にごめんね!』
と、泣きそうな声で言った。

その態度、会話を聞いていた病室内の患者の視線が、一斉にこちらに注目していた。
静まり返った病室に、『ゴメンね!ごめんなさい!ゴメンなさぃ!』と、中年女の声だけが響いた。
淳は少し恥ずかしそうに、『もういいよ!だいたい、俺が事故ったの、アンタとは一切関係ねーよ!』と吐き捨てた。
中年女はペコペコ頭を下げながら、淳のベットのゴミを回収し、
最後に『ごめんなさい・・・』と言い、そそくさと病室から出て行った。

その光景を周りの患者が見ていたので、しばらく病室は変な空気が流れた。
淳は『何なんだよ!あのオバハン!俺は普通に事故っただけだっつーの。何勘違いしてやがんだよ!』
と言いながら枕をドツイた。
俺は『中年女』の行動、言動を聞いていてハッキリと思った。
やはり『中年女』は少しおかしい。
いや、謝罪は心からしているのだろうが、アイツは呪いの儀式を行った事を謝っていた。
呪いを本気で信じているようだった。

 

 

222 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/05/29(月) 03:58:35 ID:/lsJmPn1O

淳は、

『あの頃は無茶苦茶怖い存在やって、今だにトラウマでビビってたけど、さっき喋って思ったんは、単なるオカルト信者のオバはんやって事やな!』
と、何処かしら憑き物が取れたと言うか、清々しい表情で言った。

俺は『あぁ昔と違って、俺らの方が体もデカくなったしな!』と調子を合わせた。
『さて、とりあえず一件落着したし、俺帰るわ!』
『おぅ!また暇な時来てや!』
と言葉を交わし、俺は病室を出た。

家に帰る途中、俺は慎の事を思い出した。
アイツにもこの事を伝えてやろうと。
アイツも今回の話を聞かせてやれば、あの日のトラウマが無くなるのでは無いか、と。

 

 

250 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:06/06/01 02:47:31 ID:HcpydJoy

家に帰り早速、慎と同じサッカー部だった奴に電話をかけ、慎の携帯番号を聞いた。
そして慎の携帯に電話を掛けた。
『おう!ひさしぶり!』
なつかしい慎の声。

俺はしばし慎と、最近どうよ?的な話をした後、
淳が事故って入院したこと、その病院に『中年女』が清掃員として働いていること、
『中年女』が昔と別人のように、心を入れ替えている事を話した。
慎は『中年女』が謝罪してきたことに対し、たいそう驚いていた。
そして最後に慎は、『淳が退院したら三人で快気祝いをしよう』と言った。
もちろん俺は賛成し、『淳の退院のメドがつき次第連絡する』と伝えた。

その翌日、俺は病院に行き、
淳に『慎がおまえの退院が決まり次第、こっちに帰って来て快気祝いしようってよ!』と伝えた。
淳はたいそう喜んでいた。

 

 


247 :ハッピー・タッチ ◆XhRvhH3v3M:2006/06/02(金) 00:51:34 ID:Cc3LUK3SO

それから一週間程、病院に見舞いには行っていなかった。
別に理由は無いが、新学期も始まり、なかなか行く時間が無かったというのもある。
それに『中年女』が更正(?)しているようだったので、心配も以前ほどはしていなかった。
何かあれば、淳から電話があるだろうと思っていた。

そんなある日、淳から電話が掛かってきた。
内容は、『来週退院する!』との事だった。
俺は『良かったな!』と祝福の言葉と共に、『中年女』の動向を聞いたが、
『普通にゴミ回収の仕事をしている。特に何もない』との事だった。

そして、さらに一週間が経ち、淳は退院した。
俺は学校帰りに、淳の家に立ち寄った。
チャイムを押すと、松葉杖をつきながら淳が出てきた。
『おぅ!上がれよ!』
足にはギブスをはめたままだったが、すっかり元気そうだった。
淳の部屋でしばし雑談をした。

夕方になり俺は帰宅。夕飯を喰った後、慎に電話をした。
『淳、退院したぜ!』
『まぢ!そっか、じゃあ快気祝いしなくちゃな!すぐにでも行きたいけど、部活が忙しいから、月末頃にそっち行くよ!』
との事だった。

 

 


280 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/06/05(月) 01:40:06 ID:ZlsKc24yO

そして月末の土曜日。
俺、慎、淳。
小学校以来、久しぶりの三人での再会だった。
昼に駅前のマクドで落ち合った。
久しぶりに会った慎は、冬なのに浅黒く日焼けし、少しギャル男気味だった。
まぁそれはさておき、夕方まで色々と語った。
それぞれの高校の話。
恋の話。
昔の思い出話・・・

もちろん、『中年女』の話題も出てきた。
あの時、それぞれが何よりも恐ろしく感じていた『中年女』も、今となればゴミ回収のおばさん。
病院での出来事を、俺と淳が慎に詳しく話してやると、
慎は『あの頃と違って、今ならアイツが襲って来てもブッ飛ばせるしな!』と笑いとばした。
もう俺達にとって『中年女』は過去の人物、遠い昔話で、トラウマでも無くなっていた。

 

 


282 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/06/05(月) 01:59:26 ID:ZlsKc24yO

夕方になり、俺達はカラオケBOXに行った。
久しぶりの三人での再会と言うこともあり、俺達は再会を祝して酒を注文した。
まぁ酒と言っても酎ハイだが・・・
当時の俺達は充分に酔えた。
各々、4、5杯ぐらい飲み、皆ほろ酔いだった。
いい気分で歌を歌い、かなりHIGHテンションだった。

そして二時間経ち、歌にも飽き出した時、慎がある提案をした。
『よーし、今から秘密基地に行くぞ!あの時、見捨てちまったハッピーとタッチの供養をしに行くぞ!』と。
一瞬、空気が凍った。
俺も淳も言葉を失った。
まさか、あの場所に行こうなんて、予想外の発言だったから。
慎はそんな俺達を挑発するように、
『オメーら変わってねーな!まぢでビビっんの?!ハハッ!』と、少し悪酔い?していた。
その言葉に酔っ払い淳が反応し、『あ?誰がビビるかよ!喧嘩売ってんのか慎?』とキレ出した。

 

 


283 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/06/05(月) 02:18:28 ID:ZlsKc24yO

俺は酔いながらも空気を読み、
『おいおい、やめとけって!第一、淳まだ杖突いてんだぜ?』と言うと慎がすかさず、
『あ、そっか。杖ツイてちゃ逃げれねーしな。ハハハ♪』と、かなりの悪酔いしていた。
淳は益々ムキになり、
『うるせーよ!行きてーんなら行ってやるよ!お前こそ途中でビビんぢゃねーぞ?』
と、まるで子供の喧嘩のようになり、
結局『ハッピーとタッチの冥福を祈りに』と言う名目で行くことになった。
慎、淳は二人とも結構酔っていたのと、引くに引けなかったんだと思う。
まぁ、ハッピーとタッチの供養はいずれしなければならないと思っていたので、いい機会かもと少し思った。
三人なら恐さも薄れるし。

カラオケBOXを出てコンビニに寄り、あの2匹が大好きだった『うまい棒』と『コーラ』を買い込み、
タクシーで一旦俺の家に寄り、照明道具を取って来てから、あの裏山へ向かった。

 

 


293 :ハッピー・タッチ ◆XhRvhH3v3M:2006/06/06(火) 10:37:00 ID:UBma/3yTO

タクシー運転手に怪しげな目で見られつつ、山の入口でタクシーを降りた。
俺は三人でよく遊んだ裏山という懐かしさと共に、あの日の出来事を思い出した。
こんな夜更けに、また入ることになるとは・・・
そんな俺の気持ちも知らずに、淳は意気揚々と『さぁ、入ろうぜ!』と、杖を突きながらズカズカと入っていく。
その後ろをニヤニヤしながら慎が、明かりを燈しながらついて行った。
俺は『淳、足元気つけろよ!』と言い、慎に続いた。

いざ山に入ると、昔と景色が変わっていることに驚いた。
いや、景色が変わったのでは無く、俺達がデカくなったから景色が変わって見えているのか?
登山途中、慎が淳をからかうように、
『中年女がいたらどーする?俺、お前置いて逃げるけど♪』等、冗談ばかり言っていた。
思いの外スムーズに進め、30分程であの場所に到達した。

 

 


295 :ハッピー・タッチ ◆XhRvhH3v3M:2006/06/06(火) 11:27:49 ID:UBma/3yTO

初めて『中年女』と会った場所。
俺達は黙り込み、ゆっくりと明かりを燈しながら、あの樹に近づいた。
あの日、中年女が呪いの儀式をしていた樹・・・
間近に寄り、明かりを燈した。
今は何も打ち込まれておらず、普通の大木になっていた。
しかし、古い釘痕は残っていた。所々、穴が開いていた。
恐らく、警察がすべて抜いたのだろう。

しばらく三人で釘痕を眺めていた。
そして慎が、『ここらへんでハッピーが死んでたんだよな・・・』と、地面を照らした。
さすがにもうハッピーの遺体は無かったが、ハッキリとその場所は覚えている。
俺はその場に『うまい棒』と『コーラ』を供えた。
そして三人で手を合わせ、次は『タッチ』の元へ。
秘密基地跡へ向かった。

 

 


320 :ハッピー・タッチ ◆XhRvhH3v3M:2006/06/07(水) 09:30:31 ID:dXfc2GpkO

秘密基地に向かう途中、淳が『色々あったけど、やっぱ懐かしいよな』とポツリと言った。
すると慎が、『あぁ。あの夜、秘密基地に泊まりに来なければ、嫌な思い出なんて無かっただろうな』と言った。
確かに。この山で『中年女』に会わなければ、ここは俺達にとっては聖地だったはずだ。

『ここらへんだったよな・・・』
慎が立ち止まった。
秘密基地跡地。
もう跡形も無かった。あの日バラバラにされていた材木すら、一枚も無かった。
淳が無言でしゃがみ込み、『うまい棒』『コーラ』を置き、手を合わせた。
俺と慎も手を合わせた。

しばらく黙祷したのち、慎が言った。
『ハッピーとタッチがいなけりゃ・・・今頃俺達いなかったかもな』
淳『あぁ・・・』
俺『そうだよな・・・結局、『中年女』も更正して、なんだか、やっと悪夢から解放された感じだな』
しばらく沈黙が続いた。

ふと慎が、周囲や目の前の池を電灯で照らし、
『この場所、あの頃は俺らだけの秘密の場所だったのに、結構来てる奴いるみたいだな』と。
慎が燈す場所を見ると、スナック菓子の袋や空き缶が、結構落ちていることに気付いた。

 

 


323 :ハッピー・タッチ ◆XhRvhH3v3M:2006/06/07(水) 09:53:04 ID:dXfc2GpkO

俺は『ほんとだな。あの頃はゴミなんて全然無かったもんな。今の小学生、この場所しってんのかな?』と言った。
淳が続けて、『あの時は俺ら、まじめにゴミは持ち帰ってたもんな』と言った。
その時、慎が『うわっ!何だこれ!』と叫んだ。
俺と淳はその声に驚き、慎の照らす明かりの先に視線をやった。
一本の木に、何やらゴミが張り付いている。
よく見ると、無数の菓子袋や空き缶、雑誌が木に釘で打ち付けられていた。

『なんだこれ?!』

慎が明かりを照らしながら近づいていった。
俺と淳も後をついて行った。
『誰かのイタズラ??』
俺はマヂマヂと、打ち付けられたゴミを見た。
その時、
『あぁぁぁ・・・これ・・・俺の、ゴミぃ・・・ぁぁぁぁあ・・・』
と、淳が震えた声で言いながら硬直した。
『は?!』
俺と慎は聞き直した。
淳は、『あ゛ぁぁぁ・・・俺が、病院で捨てた・・・あぁぁ・・・』と言いながら後ずさりした。

 

 


325 :ハッピー・タッチ ◆XhRvhH3v3M:2006/06/07(水) 10:06:39 ID:dXfc2GpkO

慎が『おい!淳!しっかりしろ!んなわけねーだろ!』と怒鳴りながら、釘で打たれた一枚の菓子袋を引きちぎった。
それを見て淳は、『あー、ぁあぁ・・・』と奇妙な声を出し、尻餅を付いた。
その行動に俺と慎は呆気に取られたが、次の瞬間『うわっ!』と、慎が手に持っていた袋を投げた。
『え?!』と俺がその袋に目をやると、袋の裏に『淳呪殺』とマジックで書かれていた。
俺はまさか?と思い、木に釘打たれたゴミを片っ端から引き剥がし、裏を見た。

『淳呪殺』
『淳呪殺』
『淳呪殺』
『淳呪殺』

すべてのゴミに書かれていた。
淳は口をパクパクさせながら、尻餅を付いた状態で固まっていた。
慎が何気に周囲に落ちていたゴミを拾い、『おい!これ!』と俺に見せてきた。

『淳呪殺』

なんと、周囲に落ちているゴミにも書かれていた。

 

 


328 :『ハッピー・タッチ』 ◆XhRvhH3v3M:2006/06/07(水) 10:21:17 ID:dXfc2GpkO

俺はその時、初めて気付いた。
『中年女』は更正なんて、はじめからしていなかったんだ。ずっと俺達を怨んでいたんだ。
病院でゴム手袋をして必死で分別していたのも、淳のゴミだけを分けていたんだ!
俺達に『ごめんね』と言っていたのも全部嘘だったんだ。
俺は急にとてつもなく寒気を感じ、此処にいてはいけない!と本能的に思い、
淳に『おい!しっかりしろ!行くぞ!』と言ったが、
『俺の・・・ゴミ・・・俺のゴミ・・・』と、淳は壊れていた。発狂していた。
とりあえず慎と俺で淳を担ぎ、山を降りた。

あれから8年、あの日以来、もちろん山には行っていない。
『中年女』とも会っていない。
まだ俺達を怨んでいるんだろうか?
どこかで見られているんだろうか?

しかし、俺達三人は生きている。
ただ、未だに淳は歩く事が出来ない。

このエントリーをはてなブックマークに追加




Leave a Comment

メールアドレスが公開されることはありません。